弁護士 江森 民夫

 西洋美術史研究の第一人者である高階秀爾さんが昨年10月17日に亡くなられました。高階さんは数多くの著書を出版されていますが、1969年と1971年に出版された岩波新書の『名画を見る眼』『続 名画を見る眼』は西洋美術鑑賞の手引書で、半世紀の間に82万部も読まれました。
 高階さんは『名画を見る眼』のあとがきに次の経験を書いています。

絵というものは、別に何の理屈をつけなくても、ただ眺めて楽しければそれでよいという見方もある。それはそれで大変結構なことに違いないが、しかし私は自分の経験から言って、先輩の導きや先人たちの研究に教えられて、同じ絵を見てもそれまで見えなかったものが忽然として見えてくるようになり、眼を洗われる思いをしたことが何度もある。

 高階さんは、隠された意図や意味を探りながら合わせて29点の代表的名画を読み解いており、私は絵画を見る「眼を洗われる思い」をし、展覧会に行くことの楽しみが深くなりました。なお、この2冊は2023年に『カラー版 名画を見る眼Ⅰ・Ⅱ』として改版され、さらにすばらしい本となりました。