昨年9月、静岡地裁の國井恒志裁判長は、袴田事件の再審公判で袴田巌さんに無罪判決を言い渡した。それにしても、無罪判決が確定するまで、袴田さんが、死刑の執行がなされる恐怖と闘いながら過ごした年月の長さを思うと、袴田事件に関わった警察、検察、裁判所の責任は極めて重いものがある。
この事件を教訓として、このような重大な人権侵害が起こらないようにするため、再審法の改正整備と、証拠開示と取調べの可視化を制度化すべきと考える。
私は、袴田さんの現在の健康状態を思うにつけ、この機会に、未決を含め被拘禁者の人権保障のため、現在の運用を抜本的に改めるよう提言したい。
それは、私が関わった冤罪事件の被害者の健康被害の経験からである。袴田さんが最高裁で上告棄却判決(死刑判決の確定)を受けた1980年に私は、当事務所の金井弁護士が最高裁段階から国選事件で受任した鹿児島夫婦殺人事件に国選弁護人として加わることとなった。同事件は、木谷明最高裁調査官担当で、1982年に団藤重光裁判官らの第一小法廷で弁論が開かれ、福岡高裁に差し戻され、福岡高裁での4年半の審理の後、完全無罪の判決が言い渡された。同事件は、再審を経ることなく、無罪判決を獲得できたが、事件発生から18年もの年月を要していた。被告人とされた当事者は、無罪判決が出された時50代後半になっていたが、身柄拘束中受けた過酷な取調べと長期間(10年を超える)に渡る身柄拘束が原因で心臓等を悪くしたため、社会に戻ってから10年も生きることができず、60代後半で亡くなっている。もし、第1審の早い段階で、保釈が認められれば、このような悲劇は防ぎ得たと思われる。
現在も、否認事件に対する保釈がほとんど認められず、未決勾留中に健康を損ねる被告人が出続けている。是非、この機会に、未決を含め被拘禁者の人権保障のため、現在の運用を抜本的に改めるべきである。
袴田事件再審無罪判決に思う
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