私たち夫婦には子どもがいません。今は健康で暮らしていますが、高齢者と呼ばれる年齢になっており、健康を害したり、夫婦が亡くなった後の手続はどうなるのか悩んでいます。元気なうちにできる対策についてアドバイスをお願いします。
回答者:弁護士 斉藤 豊
高齢化社会の進行につれてご質問のような相談が増えています。
遺言、死後委任契約、任意後見、家族信託などの形で対応が可能です。
① 遺言はもっとも典型的な死後対策です。主として自筆証書遺言と公正証書遺言があります。財産を知人に遺贈する、または寄附などして社会に役立てたいというようなときは遺言が必要となります。公正証書遺言としておくことをお勧めします。
② 死後委任契約は、(財産処分しか扱えない)遺言にできない死後の様々な事務を予め受任者に委任しておく契約です。葬儀をはじめ死後に生ずる様々な手続を行う子や近しい親族がいない場合に役立ちます。少子高齢化社会になり遺言の作成とともに死後委任契約を締結される方も多いようです。
③ 任意後見契約は、判断能力がなくなる場合に備えて予め信頼できる後見人候補者を選んでおく契約です。法定後見は後見事由が発生した後に家庭裁判所が後見人を選任する制度なので、本人は後見人を選ぶことはできません。任意後見制度は、本人が希望する委任内容を本人が指定する受任者に依頼しておくことができるという点で、本人の意思がより尊重される制度といえます。契約は公正証書で行う必要があり、後見事由が生じた時点で家庭裁判所が任意後見監督人を選任して契約の効力が生じます。
④ ③と同時に作成されることが多いのが財産管理委任契約です。判断能力がなくなるまでの間の銀行取引等の重要な契約事項、又は日常の財産管理などの処理を任意後見受任者に依頼(委任)する契約なので、本人の財産管理能力の減退にあわせて切れ目のない対応を信頼できる受任者に委ねることが可能となります。
⑤ 家族信託は老齢、判断能力低下とは関係なく、委託者が財産(信託財産)を受託者に預け、受託者が受益者のために信託財産の運用をする制度です。委託者と受益者が同一の場合、遺言や成年後見(あるいは後見前の財産管理契約)に代替する財産管理の仕組みとなります。死後でなければ効力を生じない(遺言)、裁判所の監督を必要とする(後見制度)といった制約がなく、3代先までの財産承継を信託行為で定めることもできるなど柔軟な運用が可能となります。