1990(平成2)年、私が弁護士になった年に、当事務所は紀尾井町から四ッ谷・本塩町に移転した。四ッ谷は25年の私の弁護士生活における「ホーム」だった。
四ッ谷は都心の割には緑が多く、忙しい中でもふと季節の移り変わりを感じることが多かった。丸ノ内線の新宿方面行ホーム脇の土手には春一番に咲く桜の樹があり、毎年その時期になると、開花をいち早く見つけるのが楽しみだった。迎賓館前のユリノキ並木も四季折々に美しく、四ッ谷の観光スポットになっている。中でも新緑の時期が一番のお気に入りだが、気候変動のせいか、私が他所で仕事をしていたせいか、ここ数年は気がつくと青々と葉が茂ってしまっていて、ちょっと残念な思いをしていた。
駅近くの聖イグナチオ教会も、四ッ谷を語る時には欠かせない存在である。お堀端の木々の上に塔をのぞかせていた旧聖堂は今はないが、時折聞こえる鐘楼の響きは変わらない。パソコンに向かいながら、ちょっと中世のヨーロッパにタイムスリップしたような気分を味わえた。
大通りから少し入ると、住宅街としての四ッ谷の別の顔が見える。庶民的な(敷地の資産価値はともかくとして)住宅も多く、数年前まで銭湯もあった。これからの再開発でこんな風景もなくなるのかもしれない。
都会だけれど何だか懐かしくほっとする街、四ッ谷。「ホーム」を離れるのは寂しいが、新天地(というにはあまりにも近い?)で気持ちも新たに頑張りたい。
さようなら四ッ谷の日々
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