私の高校の卒業記念アルバムには、盛岡の不来方城跡にある新渡戸稲造の石碑の前で、バンカラ姿のクラス仲間とともに撮った1枚の写真が掲載されている。
その石碑には、「願はくはわれ太平洋の橋とならん」と刻まれている。当時はその言葉の意味を深く考えたことはなかったが、戦後民主主義の根を探り検討をする中で、新渡戸の生涯にわたる思想と行動に、その重要な根の1つを見ることができると考えるようになっている。大学の面接試験で初めて述べたというこの有名な言葉は、異質な文化、ものの考え方に橋をかける、理解の通路をつくっていく活動に貫かれた後の新渡戸の生き方を象徴的に表している。その代表的著作の1つとされる『武士道』でも、「義」を伝統的な義理としてではなく、正義として把握し、また、「仁」は愛、寛容、愛情、同情、憐れみと解釈し、日本の伝統的な価値観の中から、普遍的な価値を掘り起こし、それを世界の人々に伝達しようとしている。
新渡戸は、また、人間の内にある可能性を育てようとする自由主義的教育家として、人格の尊重を強く主張するとともに、他方で、社会性-他者との社会関係、社会的連帯、社会意識-の大切さも強調し、女性を含めあらゆる人びとの教育にも力を尽くしている。戦後の教育改革と民主主義教育は、新渡戸の教えを受けた多くの人々によって担われてきた。
戦後70年を迎えるこの夏、戦後民主主義教育がこの国の中で果たしてきた役割を改めて考えるとともに、東日本大震災から4年を経過し、今なお復興に向けて取り組んでいる多くの仲間がいる高校卒業45周年の同期会に参加し、卒業アルバムの写真を肴に、語り明かすのを楽しみにしている。
戦後民主主義の根を探る
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