全国各地の労働局に相談されるパワーハラスメント(=パワハラ)の件数は、過去10年間で約7倍にも増えています。厚労省もこのような実態を受けて、職場のパワハラを「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」だと定義しました。そこであげられた六つの類型には、①身体的・②精神的(言葉やメールなどの文書による)攻撃といった当然のものもありますが、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害、といった行為もパワハラの典型例とされています。③は隔離・仲間はずし・無視、④は業務上明らかに不要であったり遂行困難な仕事の要求、⑤は逆に能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事はずしをすること、⑥は私的な問題に対する過度の介入、といった説明がされています。
実際にどのようなパワハラが違法と認定されるかは、特にそれが業務上の指示や指導といった形をとる場合は、ケースバイケースの判断にならざるを得ません。一般的には、その指示等が業務上の必要性に基づいていない場合、(必要性があるように見えても)その指示等が退職強要や、組合いじめ等社会的に許容されない不当な目的や動機に基づいている場合、その指示等が労働者が甘受すべきとされる程度を超えた不利益となっている場合、のいずれかに該当するときは違法と判断されるでしょう。
パワハラの被害を受けたときに、まず大事なのは,どのようなことが行われたのかを記録(証拠)に残しておくことです。被害の直後にメモに残したり第三者に事実を伝えるだけでなく、暴言等が頻繁に行われるような場合は、録音・録画等の直接的な証拠を残すことも重要です。そして、行政や裁判所に訴える前にまず職場内で是正の方法がないかどうかを探る必要があります。職場内での訴えができない場合、あるいはその効果がない場合には、労働局の指導・助言を得たり、労働委員会のあっせんを受けるなど行政のADR手続の利用が考えられます。法的にきちんと争う場合も、労働審判という比較的短時間・効果的な手続きの選択をすることが可能です。
大事なことは、違法・不当な人権侵害を許さないという気持を持つことです。パワハラ被害を受けたと感じた場合は,一人で悩まず、行政や専門家に相談をして、深刻な事態になる前に適切に対処することが肝心でしょう。