昨年「いじめ防止対策推進法」が成立し、この法律に基づく国の「基本方針」が示され、今後、地方自治体や学校が「基本方針」を建て、「いじめ防止対策」に取り組むことになっています。
一昨年の大津の中学生いじめ自殺報道が引き金です。警察の異例な強制捜査でいじめ問題は警察に任せるべきだとの見方や、放置していた学校や、隠蔽した教育委員会への不信が広がり、これまでいじめ問題で心を砕いてきた人々の間でも再検討がなされました。
こうした背景のもと、政権を奪還した安倍内閣が参院選に向けた政治課題として「いじめ防止法案」を掲げましたが、これまでの道徳教育や管理統制強化の徹底で、いじめを強制排除する手法でした。いじめは子どもたちの成長過程の問題や、集団の在り方、境遇の歪みから生じる問題で、子どもたちにはどうしようもない原因があったり、いじめ・いじめられが交代するなどして、道徳教育強化や、いじめた子の排除では解決しないことが知られています。こうしたこともあって、参議院を見据えた与野党協議で修正され、今回の法律となりました。
この経緯から法律は、「子どもの尊厳」確保を謳うなど子どもの権利条約、国連子どもの権利委員会の勧告に沿う表現もある一方、子どものみ対象の「いじめ禁止」規定や、いじめ被害には救済・支援の徹底と、加害には指導・懲戒・出席停止・警察通報で統制排除を促すと読める規定を併せ持ち、一貫しない法律になりました。
しかし、国の基本方針は、策定に関わった専門家の働きかけで、統制排除の強調は緩和され、子どもはいじめが万延する大人社会の風潮の影響を受けている、との指摘もされました。国の基本方針が、学校でどう受け止められ、いじめ防止対策が進められるかが今後の課題です。
このように、大人社会の問題でもあるいじめの問題を考えるとき、気になるのは「ヘイト・スピーチ」と呼ばれる最近の動きです。訳せば「憎悪言論」ですが、特定の人種や民族への憎しみを煽るような差別的表現をいい、具体的には、在日コリアン、在住外国人・従軍慰安婦問題などに向けて、「殺せ」などと大音響で叫びながら行う差別煽動デモが問題になっています。人種差別撤廃条約はその禁止を求めますが、批准の際、政府は、立法措置が必要な程の実態がないと留保しました。斯くして、この煽動デモは届け出で警察に守られ、公然と行われています。憲法の表現の自由条項は、このような「何をしてもよい『自由』」を保障している訳ではない筈です。昨年10月7日、京都地裁が、在特会による朝鮮学校周辺での街宣活動を「著しく侮蔑的、差別的で人種差別に該当し、名誉を毀損する」と街宣活動を禁止し、損害賠償を命じましたがこのような対応は例外に属します。
日本社会で歴史的に根強く残り、西欧ではいじめの典型とされるこのような民族差別を放置したままで、子どものいじめだけを禁止しても、そこに込めたいじめ問題克服の大切さが子どもたちに届くのだろうか、と考えるのです。