1 はじめに
離婚や相続などの家族・家庭をめぐる紛争は、私たちの事務所でも従前から日常的に取り扱っている事件です。しかし、時代によって家族のありようが変わり、法律が改められ、それに伴って家族間の紛争の様相も変わっているように思います。
この10年ほどでいうと、「子ども」を巡る紛争や高齢・障がい等により判断能力が不十分になった方のための成年後見の事件が増えていること、離婚等の人事訴訟が家裁の管轄になり、離婚時の年金分割やDV法など一定の法整備が進められた一方で、特にDVが問題となるケースではその存否をめぐってしばしば厳しい争いになっていること、さらに司法制度改革の中で弁護士が代理人以外の形で調停に関わる機会が増え、当事務所の弁護士も「家事調停官」という立場で家事調停に関与するようになったこと、等があげられます。
上記にあげた点を中心に、家族・家庭に関する法的手続等について、雑感を述べさせていただきます。
2 子どもをめぐる紛争
子どものいる夫婦が離婚する場合、離婚条件の他に、子どもの親権や養育・監護、養育費や面会交流をどうするか、などが問題となります。以前からある問題ですが、少子化の影響か、あるいは特に父親の子どもへの関わり方が変化したためか、離婚裁判においても親権や面会交流が主要な争点となるケースが増えてきています。
親権が争われる場合、子のこれまでの養育状況や自分の関わり等に関する陳述書が双方の親から提出され、子ども自身や学校、保育園等に対して家裁調査官による調査が行われるなどして、最終的に裁判官が判断することになります。お子さんと一緒にいる親御さんでも、裁判のことなどを話していない方がほとんどであり、家裁調査官の調査についてどう説明したらよいか、困惑することが少なくありません。代理人としても、お子さんにできるだけ動揺を与えず、調査が適切かつ円滑になされるよう、親御さんにアドバイスし、時には直接お子さんに話をしています。
面会交流に関しては、単に形式的に取り決めるだけではなく、実際にそれが実施されるようサポートすることが必要です。特に、一方の親が他方に連絡を取ったり顔を合わせたりすることに抵抗がある場合、代理人である弁護士が連絡調整を行ったり、面会交流に立ち会ったりすることもあります。FPICなどの民間のサポート機関を利用する場合にも、代理人が連携して、親御さんとお子さんが安心して面会交流に臨めるように努めています。
最近の民法改正で、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」ものとされ、離婚に際しては「子の利益を最も優先して考慮し」たうえで子の監護者、面会交流、養育費等を定めるものとされました。また、子ども自身が自分の手続代理人を選任して手続に参加する制度もできました(家事事件手続法23条等)。子どもの利益を第一に考え、子ども自身の意向を尊重することを基本にすえて問題を解決していくことが大切です。
3 DV事件の現状
私たちの事務所では、菅沼弁護士がDVシェルターの方たちと関わりがあることもあって、DV(ドメスティック・バイオレンス)事件を「被害者」側で受任することがしばしばあります。保護命令等の措置を含むDV法が2001年に制定されたことにより、それまで社会的に十分知られていなかったドメスティック・バイオレンスの問題に光が当てられるようになりました。
しかし、「家庭」という密室で行われる夫婦間の暴力について、立証のハードルはまだまだ高く、身体的暴力があっても診断書や写真等の証拠がないケースや、精神的暴力、経済的暴力が問題となるケースではDVの主張が認められにくい、というのが実情です。
DV被害者は配偶者から人格を否定され続けてきた結果、全く自信を持てなくなっている方が少なくありません。その方たちが誇りを取り戻し、自分の足で人生を再び歩み出すために、DV被害者であると認められることは重要な意味があります。この点に対する関係者の理解をさらに求めていく必要があると思います。
4 「家事調停官」としての家事調停への関与
2004年、弁護士が非常勤裁判官として家事調停等に関与する制度がスタートしました。これまでも調停委員の立場で弁護士が調停に関与することはあったのですが、新たな制度では「家事調停官」として裁判官と同等の立場で家事調停を主宰することになりました。法的な知識とともに、弁護士として当事者の方と直接関わってきた経験(例えば、当事者の方の調停に至るまで、そして調停中のお気持ちに寄り添いながら、より良い事件解決をしていくこと)を調停運営に活かすことが期待されています。当事務所でも船江弁護士が2012年から東京家裁で週1回、家事調停官の職務についています。
5 おわりに
民事事件の件数が10年前と比較してほとんど増えていない中で、家事事件は約1.5倍と著しく増加しています。本年ハーグ条約が批准され、国際的な子の連れ去りに関する法的手続きが来年にも始まるなど、家族・家庭をめぐる紛争はますます複雑になると思われます。私たち弁護士も一層研鑽を積み、これらの問題に適切に対応できるように努力していきたいと思います。