昨年10月4・5日、佐賀で日弁連人権大会・シンポジウムが開かれました。
企画段階から取り組んできた加藤・村山両弁護士に事務局の三木がインタビューします。
企画段階から取り組んできた加藤・村山両弁護士に事務局の三木がインタビューします。
三木: 昨年は、春から秋にかけて、人権大会の準備で忙しそうでしたね。
加藤: 弁護士会は「基本的人権の擁護と社会正義の実現」の責務があり、この観点から日弁連は、毎年人権擁護大会とシンポジウムを開いております。昨年は55回目で10月に佐賀で開かれました。
村山: 事務所だより前号で紹介しましたように、第1分科会で「どうなる、どうする日本の教育」として学校教育関係を扱ったのですが、今どうしてこのテーマだったのでしょうか。
加藤: 一昨年から昨年にかけて、都立学校の卒業式等での「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること(以下、「国旗・国歌」と言います)」の強制の問題で最高裁判決が相次ぎました。思想・良心の自由侵害とする反対意見や、教育現場での強制に自制を求める補足意見が沢山ついていました。大阪でも条例で国旗・国歌を強制したり、同じ理由の職務命令違反が3回続くと免職とか、定員割れが続く府立高校の廃校、教育委員会を知事に従属させる教育関係の条例があり、北海道でも、大阪のような服務規律実態調査や道民からの情報提供で教員を萎縮させる動きがあり、教育が危うい岐路に立っているという問題がありました。
村山: この危うい動きは、都立の七生養護学校の性教育への介入のように、子どもの学習権を侵害し、国連子どもの権利委員会から再三指摘のあった「過度に競争的な教育」をもたらして、子どもの健やかな成長を妨げるという問題を伴う「新自由主義教育改革」の中で出てきています。
三木: 「新自由主義教育改革」というのは耳慣れない言葉ですが…。
加藤: シンポでは、新潟大学の世取山洋介先生から分かり易い講演がありました。
村山: 世取山先生によると、お金を出す主人が、現場を担う教員や校長を、挿絵(プラット他編『主人と代理人-ビジネスの構造』1985年/ハーバードビジネススクール出版 世取山報告で使われた表紙)の繰り人形のように管理・統制して目標達成を図る、ビジネスの世界の手法が使われるということです。繰り糸は「基準」、「評価」、「競争」、「賞罰」で、具体的には、学習指導要領などが基準、学力テスト・教員評価・学校評価などが評価、学校選択制などが競争、学校統廃合・昇進などが賞罰となっており、国旗・国歌の強制なども、管理統制の繰り糸と見ることが出来るそうです。
三木: うちの子が通っている小学校も学校選択制で、学年に1学級しかなくなると、統廃合の問題が出てきてしまい、不安になります。
村山: シンポに向けての調査では、学校選択制の下で、不人気で入学者が少なくなると、自分たちが頑張らないからだと、子どもが自責の念に捕らわれる話を聴きました。学校や教師ばかりでなく、子どもや親も競争を強いられ、教員の多忙やメンタルヘルスが問題になったり、子どもの不登校やいじめの問題にも悪影響を与えていると考えられます。
加藤: 卒業式での国旗・国歌の強制では、卒業生・保護者・教員・在校生が、卒業を祝福し、締めくくる教育が出来なくなっているという話が教育現場の方たちからありました。
三木: 子どもたちに学力をつけるには、競争も必要ではという見方もあるようですが…。
村山: パネリストの大阪府教育委員会委員の方の、「小学校段階で基礎的な学力がついていない子が中学校で競争させられても競争にならず、自己肯定感を持てず苦痛の日々を送ることになる。かつて校内暴力で学校が荒れた背景がこれだったが、今も同じだ」という話。
世取山先生の「アメリカ・デトロイトで、貧困や虐待など学力に悪影響を与えるリスクを持つ子の割合が多いのに州の統一テストで2位をとった小学校の聴き取り調査で、校長から、『学力向上だけに関心を向けるから学力が上がらない。人格のあらゆる側面を発達させれば、あのテストなら何とかなる』と説明され、教育基本法の『人格の完成』を目指すことが大事だと確信した」という話が特に印象的でした。
世取山先生の「アメリカ・デトロイトで、貧困や虐待など学力に悪影響を与えるリスクを持つ子の割合が多いのに州の統一テストで2位をとった小学校の聴き取り調査で、校長から、『学力向上だけに関心を向けるから学力が上がらない。人格のあらゆる側面を発達させれば、あのテストなら何とかなる』と説明され、教育基本法の『人格の完成』を目指すことが大事だと確信した」という話が特に印象的でした。
加藤: このシンポを受けて、人権大会では、「子どもの尊厳を尊重し、学習権を保障するため、教育統制と競争主義的な教育の見直しを求める決議」(※)を採択しました。日弁連は、これまでも、教育基本法の「改正」問題や、国旗・国歌の強制の問題などで、意見書や会長声明を出してきましたが、教育統制の問題と競争主義的教育の問題を、子どもの権利と教師の教育の自主性・自律性の観点の両面からとらえたのは初めてのことです。昨今の教育の状況に警鐘を鳴らし、現場の先生方の励ましにもなればと考えます。そして、子どもたちが生き生きと学べ、教育に関わる方々が、自由闊達に話し合い、問題を解決していけるような学校づくりをしていく一助となればと思います。
(※日弁連のホームページで決議名を入れて検索すると出てきます。大きな字を選択してご覧下さい。)