また、離婚時の子どもの奪い合いに関する国際条約に日本も加盟する方向だと聞きましたが、A子のケースにも関係があるのでしょうか。
未成年の子に対する親権は、離婚時には父母のどちらか一方に定めることとされています(民法819条)。しかし、A子さんのように、別居したものの離婚はこれからという場合には、お子さんはまだ父母の共同親権の状態におかれています。そのため、子どもを連れて行かれた親が「自分も親権者である」として子どもをその親の元から連れ去るような「子の奪い合い」が起こることもあります。このような事態は子の福祉のためにも避けられるべきです。
A子さんの場合、まずは「子の監護者」指定の調停または審判の申立を行うのがよいでしょう。離婚して親権者が決まるまでの間、父母のどちらが子の監護を行うのかを決める手続きで、必要に応じて家庭裁判所調査官による調査が行われ、その報告を基に、子の福祉の観点から当面の監護者が決められます。A子さんの夫が、自分こそが監護者にふさわしいと思うのであれば、この手続きの中でその点を主張することになります。
A子さんの夫が子どもの連れ去りの機会をうかがっている様子があるなど、緊急性が高い場合には、「審判前の保全処分」を、「子の監護者」指定の審判申立と併せて申し立てることができます。
なお、ご指摘の国際条約は「ハーグ条約」(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約1983年発効)ですが、日本政府は米国等からの強い要請を受け、昨年5月に閣議了解し、加盟に向けた準備を進めています。この条約は、国際的な結婚の破綻に伴う子の監護権の問題は、子が生活の本拠としていた国において判断されるべきであるという前提のもとに、子がB国からC国に連れ去られた場合にはC国は申立があれば原則としてB国に子を返還しなければならない、というものです。A子さんの場合には夫婦の住所も子どもを連れて出た先も日本国内ですので、この条約の直接の影響は受けません。しかし、今後、A子さんの夫が米国にお子さんを連れ去ってしまうような事態が起きた時には、ハーグ条約加盟後であれば、同条約に基づく返還申立ができるようになります。
いずれにしても、親権は「子の利益のために」行使されるべきもの(今回改正された民法820条)ですので、婚姻関係が破綻した場合でも父母として「子の利益」を第一に考えることが大切です。