柴犬のけんちゃん。そんなに若くはない。
国一の信号待ちで偶然並んだ車の中に、この犬は居た。運転席のご主人。後ろに奥さん。その横に並んで外を見ていた。「家族で外出する時はいつもこうなんです」とさりげなさに、はっと心を打たれた。彼はそこに居ることの自然さを疑っていない。
とっさに福島原発近くの犬と飼い主たちのことを思ったのだ。
「あんな大災害でペットの事なんて」と言う人もあろう。だが突然の理不尽な離別は、日常が断ち切られた被災者の皆さんの、終わりの見えない苦しみの象徴のように思えてならない。
「6月17日で10歳です。」と子供の誕生日のように女性は言った。慰められたり、時には迷惑をかけられたりして積み重ねられた年月。「普通に」老いていける飼い犬と飼い主の幸福。
花咲く庭の中のイメージで、しみじみと描かせていただいた。
瀧 貴美枝