この春から長時間労働抑制のため改正労働基準法が施行されました。改正の柱の第一は、1ヶ月60時間を超える残業時間について割増賃金率が50%以上に引き上げられたことと、労使協定による代替休暇制度の導入です。ご承知のとおり、法定外残業時間の割増賃金率は25%とされていますが、今回の改正で1ヶ月60時間を超えた残業については更に25%増しの50%とされました。残業が午後10時以降にわたる深夜業の場合は、深夜業の割増賃金が加算されるので75%となります。割増率の増加は、通常の就業形態だけでなく、フレックスタイム制、変形労働時間制についても、契約時間や対象期間中の総労働時間の枠を超えた残業について当然適用になります。更に、60時間を超えた残業の割増分は、労使の協定により代替休暇に振替えることが可能となりました。

 問題点は、中小企業にはこれらの改正の適用が3年間猶予されたことです。業種によって適用除外とされる中小企業の規模は異なりますが、範囲がかなり広いため、実質的に大企業労働者以外には適用がされない結果となっています。また、時間外労働の上限については限度基準告示という通達があり、この通達も今回改正されましたが、従来から安易な適用が問題と指摘されていた特別条項(限度時間の例外を許す条項)は残され、限度基準を超える残業はできる限り短くするように努めなければならないという努力義務にとどまったことも改正の趣旨を徹底させないものとなりました。

 職場では形骸化しているところも多いようですが、所定労働時間を越える残業は、職場の労働者代表と結ぶ三六協定がない限り残業義務が発生しないばかりか、使用者は刑事罰による制裁を受けます。長時間残業の実質的抑制や限度基準の遵守は、三六協定の締結手続の活用なしには実現できないでしょう。

 今回の改正の柱の第二は、労使協定に基づく時間単位年休制度が導入されたことです。年休の時間取得は、実際には広く行われていますが、労基法上の原則はあくまでも1日が取得の単位でした。実態に法律をあわせたといえるでしょう。今回の改正は、長時間労働を抑制し労働者の健康を確保するだけでなく、仕事と生活の調和をとれた社会を実現することを目的としたものだと説明されています。「過労死」(カロウシ)という言葉が海外でも有名になった我が国の長時間労働の傾向は、リーマンショック後の不況下でも基本的に変わりはないようです。今回の改正労基法は、果たして日本の労働慣行に対する抑制となるでしょうか。