メキシコ発の新型インフルエンザ騒動もようやく落ち着きが見られるようになりました。未知のウイルスに対する漠然とした恐怖がパニックに発展しましたが、万が一感染・発症しても適切な対応により治ゆ可能と分かったことで、安心が広がったようです。
そうした騒動の中で、新型インフルエンザに感染していた高校生と同じ航空便でカナダから帰国した乗客40数名が、成田空港近くのホテルに「停留」されるという出来事がありました。約1週間の停留中の宿泊費や食費などは国が負担したのですが、休業補償まではされませんでした。
この停留措置とは、検疫法という法律に基づき、一定の感染症の患者だけでなく、感染のおそれのある者も入院や宿泊施設への収容をするもので、拒否や妨害に対しては6か月以下の懲役や50万円以下の罰金を科される可能性があります(停留中の逃亡にはさらに重い刑罰があります)。危険な病原体による感染拡大防止という目的からは、停留措置に一定の合理性があることは否定できませんが、感染の確認さえされていない人の身体的な自由を奪う身柄拘束であることも事実です。いわば多数の健康を守るために一部に犠牲を強いるという図式で、社会防衛のための「自由の強制収用」そのものと言えます。それなのに、休業補償すらされないのは、不十分な制度と言わざるを得ません。
憲法29条3項は、正当な補償のもとに私有財産を収用することを認めています。身体的自由を私有財産とみることはできなくても、多数の利益のための犠牲に対しては補償をするのが憲法の理念に沿った国の取るべき対応というべきでしょう。今後の検疫法改正の中で、こうした補償問題が取り上げられることが期待されます。