手島: ここ数ヶ月、田原先生のところに首都圏内の私立大学就職センター等から頻繁に電話がかかっているようですが、一体何がおこっているのですか。
田原: 各大学で一斉に新卒学生の採用内定取消しの問題が起こっていて、その対策をどうしたらいいかという相談が来ています。
手島: その採用内定取消しはどのような形で行われているのですか。また、それに対してどのような対応をしているのですか。
田原: 採用内定取消しのやり方にも色々あって一概にいえないのですが、内定取消のやり方が当初にくらべてだんだん巧妙、悪質になってきているのは確かです。
私が関わったものとしては、まず日本綜合地所株式会社のような事例があります。マスコミでも報道されたように、新卒の学生53名全員が内定取消しになりました。これは企業の側が学生に対して企業側の都合を理由に採用内定の取消しを言い渡すやり方で、典型的なやり方といえます。日本綜合地所の事例では、A大学のキャリアセンターの要請で、大学、学生と一緒に私も会社と交渉し、学生1人について100万円の賠償金を支払わせることで決着しました。これなどはまだ企業が誠意を示した方といえます。その後、学生の一部は組合に入ってさらに交渉しましたが、同社はまもなく倒産してしまいました。
私が関わったものとしては、まず日本綜合地所株式会社のような事例があります。マスコミでも報道されたように、新卒の学生53名全員が内定取消しになりました。これは企業の側が学生に対して企業側の都合を理由に採用内定の取消しを言い渡すやり方で、典型的なやり方といえます。日本綜合地所の事例では、A大学のキャリアセンターの要請で、大学、学生と一緒に私も会社と交渉し、学生1人について100万円の賠償金を支払わせることで決着しました。これなどはまだ企業が誠意を示した方といえます。その後、学生の一部は組合に入ってさらに交渉しましたが、同社はまもなく倒産してしまいました。
手島: その他にはどのような例があるのですか。
田原: その後は、日本綜合地所の事例に学んだのか、ITベンチャー企業-その中には派遣会社も含まれます-を中心により巧妙に採用内定取消しを行う企業が出てきました。このような企業は色々な「方策」を編み出しています。例えば、当初採用条件になかった講習会を実施して、そこで学生が不合格であったことを理由として採用内定を取消しをするという事例です。
さらに、1ヶ月程度の長期の講習会を実施して、その中で学生に対して適格性がないと告げたり、逆に、企業の将来性を自ら否定するような話をしたり-そのターゲットにされるのは女子学生が多いようです-、いきなり自宅待機を命じたり-この型では、その間60%の給与を保障する企業もありますが、そうでない企業もあります-、当初の採用条件になかったにもかかわらず、語学力強化と称し渡航費、研修費のみ会社が負担してそれ以外は自費で留学するよう要求したり、といったことを行って学生自らが採用を辞退するよう追い込んでいく企業が増えています。
さらに、1ヶ月程度の長期の講習会を実施して、その中で学生に対して適格性がないと告げたり、逆に、企業の将来性を自ら否定するような話をしたり-そのターゲットにされるのは女子学生が多いようです-、いきなり自宅待機を命じたり-この型では、その間60%の給与を保障する企業もありますが、そうでない企業もあります-、当初の採用条件になかったにもかかわらず、語学力強化と称し渡航費、研修費のみ会社が負担してそれ以外は自費で留学するよう要求したり、といったことを行って学生自らが採用を辞退するよう追い込んでいく企業が増えています。
手島: 企業は責任をとらずに、学生側にその責任を転嫁しているのですね。本当にひどいですね。
田原: このような悪質企業に対しては、泣き寝入りをせず、学生、大学、弁護士合同で会社と交渉して金銭的補償をさせるなどの方法で解決しています。
手島: なぜ企業は、本来将来を支える新しい戦力としての新卒の学生まで切るのでしょうか。
田原: これら採用内定取消しは、特に、昨年末ころから大きな社会問題となっている、サブプライムローン問題等に端を発した世界的な経済危機の中での企業の業績悪化に直接的な原因はあるといえるでしょう。
しかし、他方、それは単に近年の企業業績の悪化だけが問題ではありません。当事務所の事務所だよりでも折に触れて労働規制緩和やその背景にある市場原理主義について言及してきましたが(2007年1月号、7月号など)、現在問題となっている採用内定取消しもそのような数年来の一連の流れの最終的段階で起きた重大な現象だと考えるべきだと思います。
しかし、他方、それは単に近年の企業業績の悪化だけが問題ではありません。当事務所の事務所だよりでも折に触れて労働規制緩和やその背景にある市場原理主義について言及してきましたが(2007年1月号、7月号など)、現在問題となっている採用内定取消しもそのような数年来の一連の流れの最終的段階で起きた重大な現象だと考えるべきだと思います。
手島: 一連の流れとはどういうことですか。
渕上: バブル崩壊後、企業は、正規雇用労働者をリストラする一方、これを非正規労働者-パートタイム労働者、契約社員などの有期雇用社員、派遣社員-などに置き換えてきました。そして、それを後押ししたのが、労働分野での「規制緩和」です。特に2003年の労働者派遣法の改正により、それまで派遣が禁止されていた製造業の分野にも派遣社員の使用が認められるようになり非正規雇用が急増しました。さらには、その労働者派遣法の規制さえ潜脱する「偽装請負」などといったものも横行するようになりました。近年ようやく、ワーキング・プア問題など、その実態がマスコミなどでも採り上げられるようになりましたが、それまでは、「多様な働き方」の推進などといった美名の下で、これら規制緩和が推し進められてたのです。
手島: 昨年末から、年越し派遣村なども大きな話題になりましたね。
渕上: 企業が人を雇うということには当然責任が伴います。本来、企業の都合だけで安易に労働者を解雇することはできません。ところが、このような規制緩和の結果、企業は「安価」で、「首切り」しやすい労働者を増やし、そして、今、「派遣切り」、「期間工切り」などの「非正規切り」が大きな問題となっているのです。
手島: 「非正規切り」は現在働いている人の問題、採用内定取消しはこれから働こうとする人の問題という違いはありますが、その根は同じということですね。
田原: そうです。そして、その背景にあるのは、株主の利益を最優先に考え、人件費を「コスト」としか考えない株主資本主義、その「コスト」の削減の障壁となる労働者保護のための諸規制を敵視し、その縮小、撤廃を目指す市場原理主義があると考えられます。
しかし、これらの政策は、多数の人々の幸せを犠牲にした上に成り立つもので、到底許せるものではなく、既に北欧を中心に良い意味の変革が始まっていることに注目しましょう。
しかし、これらの政策は、多数の人々の幸せを犠牲にした上に成り立つもので、到底許せるものではなく、既に北欧を中心に良い意味の変革が始まっていることに注目しましょう。