人間らしく働いて暮らしたい。これは、誰でも思っていることですが、わが国の場合、諸外国と比較し、働く人の労働時間が長く、多くの企業は、働く人たちを”働かせ過ぎ”の状況にあるように思われます。”過労死”という言葉が海外でも知られるようになって、既に20年以上になりますが、残念ながら、この国では、過労死で亡くなられる方が今なおなくなりません。新しい年を迎え、1人ひとりを大切にする社会を創っていくのにささやかであっても貢献したいとの思いを新たにしております。

 このような思いを強く持つに至ったのは、Sさんの夫、Tさんの過労死事件を担当してからでした。Tさんは、大手外食チェーン店の1つで調理長として働いており、2007年当時36歳の働き盛りでした。同年3月26日に、いつもと同じように、深夜0時過ぎに仕事を終え、終電車に乗って午前1時半過ぎに帰宅し、午前3時過ぎに就寝しました。その日の起床時間になっても起きて来ず、妻のSさんが様子を見に行って異変に気づき、救急車で病院に運ばれましたが、同日死亡が確認され、死因は急性心機能不全症でした。Sさんは、夫の死亡は過労死に当たるとして、三田労働基準監督署に対して、遺族補償給付等の支払いを求めましたが、同監督署は同年8月1日に不支給の処分をしました。

 この件について、Sさんからの依頼で、不支給処分の取り消しを求めて、審査請求の手続をとったところ、昨年の8月26日、東京労働災害保険審査官は、三田労働基準監督署の遺族補償給付等をしないとした処分を取り消す旨の決定を出しました。決定は、職場の拘束時間が長いこと(平日は午前10時20分から午後11時30分過ぎまで)と深夜勤務(土、日を含む)についていたことが、「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労していた」とし、徳男さんが過労死で死亡したことを認めました。

 この件については、昨年暮れ、さらに安全配慮義務違反を理由として損害賠償請求を起こしましたが、今年中に解決すべくがんばりたいと思っております(船江弁護士と共同担当事件です)。