小泉内閣の下で徹底して行われた規制緩和・市場原理主義政策の結果、多くの分野で混乱や矛盾が生じ、格差と貧困が大量に生み出されて大きな社会問題となっていることはご承知の通りですが、公共交通機関の一であるタクシー事業界もその例外ではなく、規制緩和による野放図なタクシーの増車認可のために、市場におけるタクシーの氾濫とそれによる交通渋滞・事故の多発、さらにはタクシー乗務員の営業成績・賃金収入の急激な劣化がもたらされたことは広く知られるところです。

 この問題を採り上げて、都内のタクシー労働組合が政府・国土交通省を相手取り、規制緩和政策の誤りによるタクシー乗務員の賃金減収・生活被害を国家賠償せよと提訴した事件について、昨年1月に東京地裁で判決が出されました。

 その結論は、規制緩和を不法行為と捉える特定の仕方が不十分だとする理由で、原告の請求を棄却するという不本意なものでしたが、注目されるのは、判決理由の末尾に「付言」が付されていて、「なお、証拠調べの結果によれば、規制緩和(需給調整規制の緩和)政策の実施によって現場に様々なひずみが生じ、タクシー乗務員の生活にも困難を来たしていることが窺えるし、最近では政府側に政策の『手直し』の動きもみられるので、政府・当局としては一層改善の努力を払われたい」という趣旨の説示が述べられていたことでした。

 この「付言」の重みについては、その後の国会論戦でも取り上げられ、冬柴国土交通大臣が、判決の趣意を尊重して今後の行政に当たりたいと答弁せざるを得なかったことからも、推し量ることができるように思います。

 訴訟事件としては、この判決に対して原告組合側が控訴を申立て、現在は東京高等裁判所で審理が続行されており、一審原告側としては更によりよい司法判断を獲得すべく努力中です。