日航の個人筆頭株主としても有名な糸山英太郎氏は、湘南工科大学という理科系の大学の名誉総長という肩書きも持っている。糸山氏がこれまで学長、理事長として君臨してきたこの大学で露骨な労働組合差別と闘ってきたA教授が、昨年10月の最高裁決定でようやく教授の身分を回復した。事件は、昭和六一年にまで遡る。
Aさん(当時助教授)は、当時の教授会で他の助教授数名とともに教授への昇任を認められたが、組合員が教授になることを嫌った大学側は、Aさんと他の二名の組合員助教授の昇任を頑なに認めなかった。このためAさんらは、平成3年に大学の扱いが不当労働行為であると申立て、地労委、中労委、東京地裁といずれもその訴えが認められ、この判断は教授昇任決議の18年後の平成16年3月に東京高裁でようやく確定した。ところが、Aさんが教授になることをあくまで嫌った大学は、裁判の途中で、AさんとAさんのために証言をした組合員のB助教授を、こともあろうか懲戒解雇にしたのである。この懲戒解雇処分も地裁、高裁、最高裁と大学側の完敗に終わり、冒頭のとおりの結論となったわけだが、私が何とも情けなく思うのは、これらの裁判の過程での大学側の主張や、これに加担した教員の存在である。
大学側は、教授昇任拒否や懲戒解雇を正当化できないため、大学内の問題は大学の自治に任せるべきで、労働委員会や裁判所は介入すべきでないと主張していた。これは学問の自由を守るために大学に認められる自治のはきちがえも甚だしい。また、事件の過程では、大学側の意向に沿って、教授会がAさんの教授昇任決定を取消したり、Aさんらの解雇を強引に進めるために、大学の幹部教授達がこぞって大学側の筋書きどおりの無理な解雇理由に賛成した。これら教授達は、違法な大学当局の意向に唯々諾々と従ったとしか思えず、学者の良心はどこにいったかと声を大きくしたくなるほどである。
A教授の訴えが完全に認められたのは、定年退職のわずか数ヶ月前。Aさん、Bさんの差別、解雇に加担した教員は、今どのような思いで学生達を教授しているのか。真理を探究する場所で起きた事件だけに余計気になるところである(事件は、斉藤のほか田原、金井弁護士が担当)。