昨年11月30日、東京高等裁判所で、新横田基地騒音公害訴訟の控訴審判決が言い渡されました。判決は、基地周辺に居住する5000名余りの原告に対して、総額約32億5000万円の慰謝料を支払うよう国に命ずる内容でした。これは我が国の航空機騒音裁判では、過去最高額の賠償命令です。

 「静かな眠れる夜を返せ」を合い言葉に裁判に参加してきた周辺住民にとっては、夜間早朝の飛行を制限する判決を期待していましたが、残念ながら在日米軍の活動を日本政府がコントロールできないという理由で、賠償以外の請求は斥けられました。しかし賠償については、騒音公害被害者の救済という点で、大きく前進した判決となっています。

 騒音被害の存在を知りながら被害地域に住み始めた人が賠償請求をすることが許されるのか。このような考え方は「危険への接近」論と言われています。国はこの理論を前面に立てて、多くの原告について、賠償請求自体を斥けるべきだとし、あるいは賠償額を減額すべきだと主張していました。横田基地の騒音を巡る過去の判決でも、この考え方が一部採用されていましたが、今回の判決は、騒音被害を容認して住み始めた者はいないこと、騒音被害軽減に努めるのが国の本来の責務であって、賠償の減免を求めるのは不当であることなどを理由に、「危険への接近」論の適用を否定しました。その上、騒音被害を被っている被害住民が、繰り返し裁判を起こさなければ賠償を受けることができないという現状を、「法治国家のありようから見て、異常の事態」とし、「立法府は、適切な国防の維持の観点からも、怠慢の誹りを免れない。」と国の姿勢に注文をつける異例の判断を示したのです。

 しかし、国はこの厳しい判決にも関わらず、米軍再編に連動した自衛隊航空総隊の移駐(軍軍共用化)、民間航空機定期便の就航(軍民共用化)など、騒音被害を一層激化させかねない「基地の有効利用」の具体化を進める一方で、住宅防音工事などの補償を行う被害地域の線引き縮小を、先行して断行するという暴挙に出ています。民間機就航による経済効果の皮算用で目を眩ませながら、補償範囲を絞り込んでおいて騒音をまき散らす。これを横暴・卑劣と言わずに何と言いましょう。

 現在、訴訟は一部が最高裁判所に係属していますが、現在のような国の施策のあり方が続く限り、周辺住民はまた新しい訴えを起こさざるを得ないと思われます。