「横浜事件」については前にも書きましたが、この事件は、太平洋戦争が開始された1941(昭和16)年頃、戦争に反対する共産党勢力の活動を恐れて当時の東条内閣やその指揮下の特高警察が、あり得もしない妄想から、中央公論社や改造社・岩波書店等の記者や執筆者たち約60名を次々に逮捕・投獄し、激しい拷問を加えた上で(死者も出た)、彼らが「日本共産党やコミンテルンの目的遂行のためにする行為をした」などという架空の”事件”をデッチ上げ、そのうち約30名を当時の裁判所に起訴して有罪判決に服せしめたという、残虐非道なフレーム・アップ事件です。

 1986(昭和61)年になって漸く、そのような有り得もしない”事件”の被告人として酷い目にあわされた人達が立ち上がって、不当な有罪判決の破棄と改めての無罪判決を求めて横浜地裁に再審請求を提出し、闘ってきたのでしたが、2003年4月に至って横浜地裁刑事部が元被告人らの第三次請求を受け容れて、初めて再審開始決定を下しました。このとき裁判所は、1945年8月14日のポツダム宣言受諾により、思想・表現・結社の自由を抑圧する「治安維持法」は実質的に失効したので、元被告人の人達は「刑ノ廃止」」により、免訴の判決が相当だと決定したのでした。

 ところが、その後の抗告審で東京高裁刑事部は本年3月10日、検察官の抗告を却けて横浜地裁の再審開始決定を支持する旨の決定を下し、その理由として、かつての特高警察の取り調べには拷問の疑いが濃厚であり、元被告人らには無罪判決を受けるべき証拠があると言い切ってくれました。これは、横浜事件の核心に正面から切り込んだ断乎たる無罪的判断で、さすがの検察側も上訴をあきらめ、早ければ7月からでも本格的な再審裁判が始められようとする状況となっております。

 かつての軍国主義日本の暗部にメスを加え、特高警察の暴虐な実態を明るみに出そうという再審裁判の成り行きに、これからも注目して頂きたいと思います。