弁護士 井澤光朗

 

1. 不正競争防止法の一部を改正する法律が平成15年5月16日に成立し、平成16年1月1日から施行されました。

2. 本改正法の主な改正点は、①営業秘密の刑事的保護の導入、②侵害行為及び損害額の立証容易化等の民事的保護の強化、③社会のネットワーク化に対応した概念規定の見直し、の三点です。③については法律をご覧いただければわかりますし、②につきましては不正競争防止法に基づく損害賠償が特許法で認められた損害額の立証の容易化と同じように改正されたもので、技術的なものですので紙数の関係で説明を省きます。

3. 今回の改正の中心は、営業秘密の刑事的保護の導入です。平成2年の改正で不正競争防止法に営業秘密の民事的保護規定が導入されましたが、民事的保護だけでは不十分であること及び諸外国で刑事罰を導入・強化する方向が進んだことで、今回の改正になりました。
 今回の改正は不正競争防止法14条1項の3号から6号に規定してあります。

①  3号(不正取得後使用・開示罪)―不正に取得した営業秘密を、不正の競争の目的で、使用又は開示する行為です。
 不正に取得とは脅迫により営業秘密を取得したり、不正アクセス禁止法によって禁じられている不正アクセス行為等によって取得したような場合です。不正な取得方法が他の刑事罰に該当すれば、その適用も受けます。この場合にも不正の競争の目的で行うことが必要です。

②  4号(不正取得後使用・開法律の動き示準備罪)―3号の準備行為として、不正の競争の目的で使用又は開示するために営業秘密を不正に取得する行為のうち、営業秘密が記録された媒体等の原本を取得する行為又はその複製を作成する行為です。
 記録媒体を取得したり、その複製をする行為は使用又は開示の危険が著しく高まり、また、使用、開示されると取り返しのつかない事態が生じる可能性があり、使用又は開示が秘密裏に行われるとその立証ができない場合があるため、3号の準備行為を処罰の対象としました。

③  5号(不正領得後使用・開示罪)―営業秘密をその保有者から示された者が、不正の競争の目的で、営業秘密を記録された媒体等の原本を不正の行為によって領得し、又はその複製を作成して、使用又は開示する行為です。
 営業秘密は当初、正当に示されていた者が、不正に記録媒体の原本を入手したり、複製をし、使用、開示してしまう場合で、退職者が自己使用目的で記録媒体を持って帰ったり、複製したりして開示、使用するとこの規定にあたります。

④  6号(役員・従業者不正使用・開示罪)―営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業者が不正の競争の目的で、その営業秘密の管理の任務に背いて、使用又は開示する行為です。
 上記、規定に該当すると3年以下の懲役又は300万円以下の罰金となります。概括的にご説明申し上げましたが、企業活動にとっては重要な改正ですので、一度勉強されると良いと思います。