今年3月に入って社会保障問題の分野で、国民の側を勝訴させる重要な判決が相次いで出され、社会の注目を浴びました。たまたまそれらの裁判事件に関わってきた者の一人としてご報告申し上げたいと思います。

 その一つは、3月16日に最高裁判所(第三小法廷)から出された学資保険事件の判決です。事件は福岡県下のある生活保護世帯で、両親が娘二人の高校進学に備えて、幼少の頃から学資保険(郵政省)に加入し、乏しい保護費の中から月々3000円の保険料を15年間にわたって積み立ててきたのですが、この学資保険が漸く満期(高校進学の時期)を迎えて、50万円近い満期保険金を受け取ることになったところ、これを知った福祉事務所の職員がこの保険金を「収入」と認定して、その分だけ月々の保護費から差し引き、支給額を減額したというものです。

 これについて最高裁は、原告側の主張を容れ、「保護世帯が将来に備えて、保護費の中から一定額を貯蓄に回し、あるいは保険料を捻出して子どもの高校進学のための学資保険に加入することは差し支えない」という、前向きの見解を示し、当局側に違法な減額措置の是正を命じました。生活保護制度が、「保護世帯の最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」(法1条)と定められていることからすれば、当然至極の考え方といえましょう。

 二つ目は、3月24日の障害学生無年金裁判に関する東京地裁(民事三部 藤山裁判長)の判決です。昭和34年に国民年金制度が発足し、20才になればすべての国民がこの制度に加入を義務づけられるとされたのに、学生やサラリーマンの妻は「稼得能力がない」等の理由で、この制度への加入を認められませんでした。

 そのため、たまたまこれら(学生等)の身分でいる時に障害を負った者には国民年金(障害年金)の給付が与えられぬという不合理が生じたのですが、それにも拘らず政府・国会は”制度の谷間”に落ちたこれらの人々を40年近くも無年金の状態に放置してきたために、この裁判でその責任を追及されたというわけです。

 東京地裁は判決で、このような政府・国会の怠慢=「立法の不作為」は障害学生らに著しく不合理な差別(憲法14条違反)と苦痛をもたらしたと認めて、多額の損害賠償を国に命ずるとともに、政府・国会に速やかな救済措置を促しました。

 これらの裁判で、原告国民側が勝利を収められたことは喜ばしいのですが、反面でこれらの事態は、困窮した国民が裁判に訴えてでも救済を求める外に途がないという、きびしい政治の現実があることをも示しており、手放しで喜んではおられないと感じております。