火に油を注ぐ
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受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案が国会で審議されているようですが、今月15日に衆議院厚生労働委員会で、参考人として招かれた日本肺がん患者連絡会の代表が意見を述べているところに、自民党の議員から「いい加減にしろ」などとヤジが飛ばされたことがニュースになっています。
参考人に招いておいて、その発言を中断させるような物言いには呆れてしまいますが、今回はその事後対応の問題について考えてみます。
当の議員は、ヤジがマスコミ等で取り上げられたのをきっかけに、「お詫び」と題する短い文章を、自身のウェブサイトに掲載しました。
「お詫び」というタイトルからして、当然謝罪文なのだろうと想像しましたが、内容を読んでみると、これは謝罪文とは思えない内容でした。
短い文章なので、全文を引用します。
この度、去る6月15日に行われた衆議院厚生労働委員会において、参考人のご意見の際、私が「いい加減にしろ」といったヤジを飛ばしたという報道がありました。
まずは参考人の方はもとより、ご関係の皆様に不快な思いを与えたとすれば、心からの反省と共に深くお詫び申し上げる次第でございます。
もちろん、参考人のご発言を妨害するような意図は全くなく、喫煙者を必要以上に差別すべきではないという想いで呟いたものです。
とはいえ、今後、十分に注意して参りたいと存じます。
この度は誠に申し訳ありませんでした。
私たち弁護士は、依頼者の権利擁護のために「たたかう」というイメージを持たれることが多いのですが、その反対に、「謝罪する」ことの相談を受けることも少なくありません。交通事故の加害者の例を想像していただければお分かりかと思います。
そういう経験から言えば、上記の「お詫び」は大変まずいと言わざるを得ません。
謝罪についてよく言われるのは、
- 事実関係の正確な把握
- 被害の回復
- 関係者の適切な処分
- 再発防止策
という点をしっかりと押さえるということです。もちろん、事案によって違いがあるので、これだけで十分とはいかないこともあるでしょうけれど、どれもたしかに大切なことです。
特に大事なのは事実関係の把握です。謝罪を受ける立場で考えれば当然ですが、見当違いのことで頭を下げられても困りますし、まして、事実をねじ曲げられたりしたら、謝罪を受け入れる気もなくなろうというものです。
今回の「お詫び」を読んでみると、
「私が『いい加減にしろ』といったヤジを飛ばしたという報道がありました」
「参考人の方はもとより、ご関係の皆様に不快な思いを与えたとすれば」
というもので、「自分がヤジを飛ばしたことで、不快な思いを与えた」という事実をわざと認めないようにしているように見えてきます。
「そのような報道があった」ことだけ認め、「(もしも)不快な思いを与えたとすれば」という条件をつけて、反省し、お詫びします、というわけですから、「バレちゃったから仕方ない。不快に感じたなら謝るけれど、俺の発言自体は悪くない。」と言っているのも同然です。
その上、「喫煙者を必要以上に差別すべきではない」と、受動喫煙対策問題を、喫煙者とそれをおびやかす人という対立関係のように捉えた発言を付け加えることで、「ああ、この人はそのうち同じことをくり返すだろうな」と思わせてしまっているわけです。
本心からお詫びをするつもりだったとしても、結果的には火に油を注いでしまった悪い見本として、私たちも参考にしたいと思います。
件の議員も、弁護士に相談していれば、違った結果になったかも知れません。
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