憲法第15条(選挙権)
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第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
憲法の柱の第1に挙げられる国民主権を、第2の柱の基本的人権尊重を具体化する第3章の「国民の権利及び義務」の中で明らかにしています。
1項が、「公務員」の選定、罷免を「国民固有の権利」とするのは、国民主権原理の表明です。ここで「公務員」というのは、国や地方公共団体の公務に関わることを職務とする者で、国会や地方議会の議員も含みます。
このうち、内閣総理大臣、国務大臣、最高裁判所の長官や裁判官、国会議員、地方公共団体の長や議会の議員などの選定方法は、憲法自身が定めますが、国民の関わり方は様々です。憲法が定める国民による罷免も最高裁判所裁判官だけです。憲法に定めのない公務員の選定・罷免は、国民主権原理に従って、法律で定めることになります。
2項で「全体の奉仕者」とされる「公務員」には、内閣総理大臣や国会議員なども含みます。議院内閣制の下では国会議員や大臣は政党の方針に沿うことが出てきますが、それも「国民全体の利益」への配慮がなく特定の関係者の利益を図るものだと、この条項に抵触するでしょう。
また、この「全体の奉仕者」を根拠に、国家公務員や地方公務員は、政治活動の自由や労働基本権が法律で制限されています。
しかし、このような公務員への人権の制限は、その職務との関係で、国民から信託を受けた公務が、政治的中立性を害するのか、団結権や団体行動権が公務に支障が生じるのかにより、具体的に判断されないと、憲法の基本的人権尊重の立場に反することになるでしょう。
他方、例えば人事権を握る上司の関係者の利益を「忖度」して職務を行うのは、「一部の奉仕者」となり許されません。
3項の「公務員の選挙」は、憲法や法律が「選挙」により選定するとした場合に、「成年者による普通選挙」を保障するもので、国民主権の下での国民の参政権の重要な一態様を定めます。
普通選挙は、歴史的には財力(納税や財産所有)による「制限選挙」に対する用語ですが、この「普通選挙」は、性別や人種、信条、社会的身分、門地、教育などによる差別も許さない意味です(44条と14条を比べてみて下さい。)。
また、この「普通選挙」には、選挙の平等の観点から議員定数配分に伴う投票価値の平等が含まれ、さらに、具体的な投票の保障も含むものとして捉えられ、在宅投票制度や不在者投票の拡張(期日前投票制度)や労働基準法7条の公民権行使保障規定などが設けられています。
「成年者による普通選挙」の、成年年齢は法律が定めることになりますが、未成年者に選挙権を付与することを憲法は禁じておらず、18歳選挙権を認めたからといって成年年齢や少年法適用年齢を引き下げなければならないわけではありません。
4項は、選挙人の自由な意思による投票を保障するための秘密投票の原則を定め、公職選挙法は、無記名投票、他事記載の無効、投票用紙の公給、投票した被選挙人の氏名陳述義務の不存在、投票の秘密侵害罪、投票干渉罪などを規定しています。
選挙無効裁判などでも、誰に投票したかの取り調べはしないこととなっており、事実上投票の内容が判ったり、選挙人が自発的に投票内容を表明しても、公的にはもちろん私的な関係でも不利益に扱ってはなりません。このように憲法が私的な関係にまで言及するのは珍しいことです。
なお、被選挙権については、憲法は明文で定めていません。しかし、国民主権の下では、被選挙権(立候補の自由)も、その具体的内容は法律に委ねられることになりますが、「公務員の選定、罷免」を「国民固有の権利」とする趣旨に含まれると解されています。
(弁護士 村山 裕)
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