憲法第27条(労働の権利)
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第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。
憲法第27条は、戦後制定された新憲法の労働基本権についての中核的規定として、第1項「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」、第2項「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」、第3項「児童は、これを酷使してはならない。」としたものです。
その理由は、敗戦とともに、戦前の日本は世界の経済市場で相当な地位を保持しながら、その中身はソーシャルダンピング(国家・社会的規模での労働力の不当な安売り)を行い、「血と肉の輸出国」といわれる程、世界各国からの批判の対象となっていたこと等の深刻な反省の上に立って、わが国の労働者の権利を確立するために制定されたものです。
本条の解釈と位置付けについて
ここでいう労働者の権利とは、「労働能力を有するものが、私企業のもとで就業しえない場合に国又は公共団体に対して労働の機会の提供を要求し、それが不可能な場合には相当の生活費を要求する権利」を持つと解されています。
その根拠は、近代的な自然法思想のもとで、労働権の概念を根拠に労働者の生存権保護に対する実質的裏付けとして本条が設けられたとされており、極めて重要な権利です。
第1項後半 労働の義務について
この規定は衆議院で修正追加されたものなのですが、勤労の権利規定に対応し、抽象的かつ道徳的な意味で勤労する意思のないものには生存権保証の必要がないという、思想の表現に過ぎず、本来の義務規定ではないとされています(註解日本国憲法上巻・法学協会509~513頁等参照)。
第2項 労働基準の法定について
これらの規定は、前記戦前の反省から、憲法第25条の規定にも対応して、労働によってその生存を確保せしめるために、賃金、労働時間、休息等々の労働基準を法律で明確に定めて、全ての労働者に少なくとも「健康で文化的な最低限度の保障」を全うさせようとするため設けられたもので、明確な労働基準制定のための具体的規定の基本条項とされています。
第3項 児童の酷使の禁止について
この規定も戦前の反省からつくられた規定ですが、労働基準法は女子含めてその保護規定を具体化して規定しています。
おわりに
憲法制定後、世界的経済の変動、混乱もあり、労働者の権利・地位は必ずしも十分確保されていない今日の状況下で、本条の位置付けと活用は益々重要になっています。
(弁護士 田原俊雄)
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