痛くもない腹を探られる
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痛くもない腹を探られる
悪いこともしていないのに、疑いをかけられる、という意味の慣用句ですね。
念のため、ではなく、ちゃんと辞書で調べました。
閣議で確認するまでもなく、上記は広辞苑第5版のものです。
現在、共謀罪の構成要件を改めてテロ等準備罪を新設する法案が国会で審議されていますが、法務大臣や法務官僚がどのように説明しようと、「犯罪が起こる前に取り締まる」ための犯罪類型を作り出すものである以上、この法案が成立すれば、監視社会化が一層進むことは疑いありません。
監視社会化が「一層進む」と書いたのは、すでにその動きはあるからです。
今やどこに行っても防犯カメラがあります。防犯カメラが設置されることで、その撮影範囲内で起こる犯行が証拠化され、検挙されやすくなり、ひいては、犯行がばれてしまうことを恐れる犯罪者を思い止めさせ、町の治安が守られる、というわけです。でも、犯罪とは無関係な一般市民の動きも記録されるのですから、監視であることに違いはありません。
最高裁で令状によらないGPS捜査は違法とされましたが、簡単な方法で人の行動を追跡できる時代になっていることは事実です。
その仕組みはよく分かりませんが、インターネット上のやりとりを傍受することは、技術的には可能なことです。 エドワード・スノーデン氏によれば、アメリカ国家安全保障局 (NSA) と中央情報局 (CIA) はすでにそれを行っているそうです。
やましいことがなければ、監視社会を恐れることはない、という言い方もあります。
しかし本当にそうでしょうか。
「痛くもない腹を探られる」という慣用句は、単に「悪いこともしていないのに、疑いをかけられる」という意味だけでなく、その不快感をも表しています。やましいことの有る無しにかかわらず、疑いをかけられることの不快感は、慣用句が生み出されるほどに社会に共有されていた感覚・感性であったはずです。
その不快感を避けるためには、鈍感になるか、腹を探られないように従順になるしかありません。
治安や防犯と引き換えに、柵に囲まれた牧場の羊の群のように生きることを選択する。それが監視社会のもうひとつの側面です。
これを受け入れさせることに成功すれば、テロリストの勝利ですね。テロの見えない恐怖によって人々を柵の中に追い込み、社会の生気を奪うことに成功するのですから。
共謀罪改めテロ等準備罪。皮肉なものです。
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