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取り戻すまでもない

 

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働かざる者食うべからず

 この言葉は、しばしばレーニンの言葉として伝えられています。
 ソビエト連邦共産党(当時)の機関誌「プラウダ」第17号に寄稿した論文の中に用いられた表現だそうです。後のソビエト社会主義共和国連邦憲法(スターリン憲法)には、この言葉が明記されていました。
 レーニンの意図は、不労所得をむさぼる階層を非難することにあったようですが、現代にあっては、むしろ、失業者(中には生活保護受給世帯も)を揶揄して言われることが多いのかも知れません。

 しかし、実はこの言葉はレーニンが生み出した言葉ではありません。新約聖書の「テサロニケの信徒への手紙二」の中に同様の表現があるのだそうです。レーニンはロシア正教会の信徒の家庭に生まれ育ったので、聖書に触れる機会も少なからずあったでしょうから、聖書の言葉を論文に用いたのは偶然ではないのかも知れません。

 「働かざる者食うべからず」という言葉が社会福祉政策を否定するような使われ方をすることには注意が必要であるとしても、一般論としてはおおむね支持される考えでしょう。自分ではろくに働きもしないのに過分な利得を手にしようとする態度は、非難されることが多いと思われます。

 しかしだからといって、「スターリン憲法の精神は取り戻されるべきです。」とか言い出したら、大抵はギョッとされるのは間違いありません。たとえばそれを国務大臣が発言したら、早晩更迭されるか、辞任に追い込まれるでしょう。

 さて、そこで世間を賑わせている教育勅語のことです。

 教育勅語には、親孝行をしましょうとか、兄弟姉妹は仲良くとか、夫婦は仲睦まじくとか、何も勅語(天皇の御言葉)として言われるまでもないような言葉が並びます。論語の中にも見られる言葉もあるようです。

 ところがこの教育勅語は、日本国憲法施行後の1948(昭和23)年6月19日、衆参両院で排除・失効が確認されています。ではそれ以来、子は親を見捨て、兄弟喧嘩は凄まじく、夫婦の不和に拍車がかかったかと言えば、そういうわけではありませんし、一般的な倫理観が否定されたわけでもありません。教育勅語が国会で排除・失効確認までされたのは、「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」という、国家に対する滅私奉公を奨励する考えが、最終的にはあの悲惨な戦禍を招いたことに対する反省からです。

 皆仲良くし、博愛を広め、勉学に励み、仕事を身に付け、知識を養い、人格の向上に努めましょうというのは、今さら教育勅語に復活していただくまでもないのです。むしろ、国民は「美しい国・日本」の存立・繁栄のために滅私奉公すべしという、時代錯誤的な尾ひれが付いてくることの方が問題でしょう。それを確信犯的に「教育勅語の精神は取り戻されるべき」と公言する政治家には、早めにご退場いただくのがよろしいかと思います。

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