判決の言い間違い
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みなさんは判決の言渡しに立ち会ったことがありますか?
判決は裁判のクライマックスですから、言渡しを受ける当事者にとってもっとも緊張する瞬間ですが、実は、言渡しをする裁判官にとっても油断ならない場面なのかも知れません。
全国ニュースではなかったので、ご存知の方は少ないかも知れませんが、先週の6月2日に大分地裁であった刑事事件の判決言渡しで、裁判官が判決を言い間違えてしまうという事態があったようです。
あらましはこういうことです。
被害額数千万円という詐欺事件の被告人に対して、裁判官は懲役2年6月の実刑を言い渡したのですが、同時に「未決勾留日数80日を算入する」(注・判決までの身柄拘束期間のうち80日分をすでに服役したものと換算するという意味)と付け加えたのです。
よくある判決のスタイルですが、大きな間違いがありました。実は、この被告人は別の事件で実刑判決を受けて服役中だったため、「未決勾留」がなかったのです。
実は、刑事事件での判決の言い間違いというのは時々あるようで(といっても滅多にありませんが)、小さなニュースになっていることがあります。ありがちなのは、「没収忘れ」だそうで、被告人に有罪判決をしたものの、被告人が所持していた違法薬物の没収をし忘れたなんてことになったら大変です。
そこで判決に立ち会う検察官は、あらかじめ判決内容についてのチェックリストを用意して、判決に間違いがないかどうかチェックするのだそうです。例えば、執行猶予を付けられない事件で執行猶予が付いたりしないかどうか、法律上許される刑の減軽の最下限を下回っていないかどうかとか、もちろん、未決勾留日数や没収すべき物なども事前に確認しておくのです。
いざ判決の言渡しに際して、裁判官が間違った判決を言い渡したのに気付いた検察官は、判決言渡し直後に、間違いを「示唆」します。はっきり「間違ってます」と言わないのが暗黙の了解のようです。
件の大分地裁では、検察官が「受刑中です」と指摘したのでしょう。
刑事訴訟法342条は、
判決は、公判廷において、宣告によりこれを告知する。
と定めていて、閉廷前に、裁判官が「正しく」言い直せばセーフなので、裁判官は内心動揺していても、素知らぬ顔で未決勾留を算入しない判決を言い直したようです。
これと対照的なのが民事事件。
こちらは、民事訴訟法252条で、
判決の言渡しは、判決書の原本に基づいてする。
と定められているものですから、判決期日までに判決書を作成しなければならない上に、読み間違えはともかく、書き間違えはその場で訂正というわけにはいきません。
もし刑事事件で判決の間違いに気付かずに閉廷してしまったらどうするか。
民事事件で、判決を読み上げている途中に、判決の書き間違いを発見したらどうするか。
興味のある方は調べてみると面白いかも知れませんよ。
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