職場におけるパワハラとは、① 優越的な関係を背景とした、② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③ 就業環境を害することをいいます。このうち、① の「優越的な関係」については、職位上は部下であっても業務の習熟度や職場環境等から実際上職場内で優位に立つ場合はありえますので、部下からのパワハラもありえます。
当該行為がパワハラにあたり不法行為に該当する場合は、当該行為と相当因果関係ある損害について、民事上の賠償請求が可能です。パワハラに遭ったら、録音や日々メモをとるなどで証拠を集めておきましょう。部下の業務上の行為が不法行為となる場合、会社についても使用者責任が成立する他、会社に職場環境整備の義務違反があれば債務不履行責任も成立しえます。場合によっては労災申請も考えられます。
2019年、パワハラ対策法制上、一定の前進がありました。
5月、雇用対策法が名を変えた「労働施策総合推進法」の中に、事業主がパワハラについて雇用管理上講ずべき措置等(いわゆる「措置義務」)に関する条文が組み入れられました。改正法は、2020年6月から施行され、大企業については施行と同時に適切な措置をとる法的義務が課せられます(中小企業は2022年3月31日までは努力義務)。
国際的には、6月にILOでいわゆるハラスメント禁止条約が採択されました(日本政府は採択には賛成するも批准せず。)。この条約と比べると、上記改正法はハラスメントを「禁止」しておらず罰則もないという数段弱いものです。
11月には労働政策審議会で改正法の「措置義務」を具体化する指針(案)がまとめられました。この指針(案)の中で、職場におけるパワハラが上記三要件のとおり定義されています。指針(案)については「使用者の弁解カタログ」だとの批判もあります。「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」はパワハラに該当しないなど、範囲が限定されていることに加え、パワハラの六類型毎に「該当しないと考えられる例」が具体的に例示されており、あたかも予め使用者側の言い訳を用意したようなものであるからです。
パワハラ根絶に向けた社会の整備のために、被害当事者の声に最も訴求力があることは間違いありません。被害を受けたと感じたら泣き寝入りせず、まずは相談しましょう。