インターネットの存在は現代人にとって不可欠ともいえるものですが、その利便性とは裏腹に、ネットが生み出す不利益の影響も深刻になりつつあります。一度ネット上に拡散した情報は、その情報の質や内容にかかわらず容易に消し去ることができない特質を有しているからです。
昨年10月に東京地裁は、ネット検索最大手のグーグルに対し検索結果の表示の一部削除を命ずる画期的決定(国内初)を出しました。申立てをしたのは、グーグルで名前を検索すると犯罪にかかわっていたかのような検索結果が出てくることがプライバシー侵害になると主張した男性です。裁判所は、男性の申立てのうち著しい損害を与えるおそれがある検索結果の標題とその下に表示される内容の一部の削除を命じました。
ネットをめぐるこれまでの裁判例は、電子掲示板への書き込みや、個々のウエブサイト上の表現をめぐる争いがほとんどでした。ところが、実際のネットでの情報取得はグーグルとかヤフーといった検索エンジンを通じて行われる場合がほとんどです。今回の決定は、情報が拡散した場合にネット上の情報へのアクセスの元を絶つことができるという意味で重要な意義を持つものといえます。
昨年5月にEU司法裁判所は、今回の東京地裁決定と同様の判決を出しましたが、その判断の中で(ネット上からも)「忘れられる権利」があるとしたことが話題になりました。この「権利」はデータ保護に関するEU指令に基づくものなので、ただちに日本の国内法で通用するものではありません。しかし、人格権・プライバシー侵害の問題とネット上から得られる情報の利便性の調整は、今後わが国の司法判断でも益々その重要性を増していくことは間違いないでしょう。
「忘れられる権利」
カテゴリー:裁判の動き