去る4月24日、名古屋高等裁判所において一つの注目すべき判決が下されました。平成19年7月に91歳の認知症男性が電車事故で死亡した件につき、裁判所は男性の同居の妻(事故当時85歳、要介護度1)に対し、運行遅れ等の損害の内約360万円の支払を求める判決を下したのです。
民法上、重度の認知症など責任能力のない者は不法行為責任を負わないとされ、かかる場合に被害者の救済を図るべく、責任無能力者を監督すべき立場にある者が監督義務を怠ったと評価される場合において、責任無能力者の行為により生じた損害を監督義務者が賠償する責任を負うこととなっています。本件の妻も、そのような監督義務違反、すなわち夫から目を離さす介護する義務を果たさなかった、ということを理由に損害賠償責任を負うこととなったのです。
本判決は、店舗兼自宅出入り口に設置された来客用センサー付きアラームをきちんと作動させていれば男性の徘徊に気付く事が出来だのにあえてスイッチを切っていた、という点を義務違反の内容としており、家族に当然に責任を負わせるものではありませんが、現実に介護を担う家族に対し強い衝撃を与えるものでした。
国土交通省によれば、認知症患者は平成22年度には200万人を突破し今後2020年までには325万人まで増加するとの予測も立てられています。そして、介護を担う家族もまた高齢化しているのであり、そのような老老(認認)介護の現状の中でどこまで家族に責任を求めるのか、在宅介護の在り方について今一度見直し、家族が過度の負担を追わないような制度作りが急務と言えます。
超高齢化社会の課題
-認知症患者鉄道事故賠償事件-
カテゴリー:裁判の動き