2004年5月、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立しました。遅くとも5年後には、市民が裁判員として刑事被告人の有罪・無罪、有罪の場合の刑を決める新たな裁判制度がスタートします。あなたが裁判員に選ばれる日はもうすぐです。
今日は、この間市民が参加しやすい裁判員制度をつくろうと熱心に取り組んでこられた新倉修青山学院大学教授に、立法までの経過や今回成立した法律の内容、今後の課題などをお伺いしました。
今日は、この間市民が参加しやすい裁判員制度をつくろうと熱心に取り組んでこられた新倉修青山学院大学教授に、立法までの経過や今回成立した法律の内容、今後の課題などをお伺いしました。
(聞き手)弁護士 菅沼友子/事務局 西野由紀
菅沼: 裁判員制度がいよいよ実現することになりますが、どういう意義があるのでしょうか。
新倉: 何と言っても普通の国民が刑事裁判に関与する、主権者である国民が自ら司法を支えていく仕組みができたということです。まだ小さな一歩ですが、国民主権に基づいた司法制度の実現に向けて、大きく成長していく可能性があります。また、そうしなければなりません。
西野: 新倉先生は「市民の裁判員制度つくろう会」(注)の中心メンバーのお一人だったということですが、今回の立法についてどんな活動をなさってきたのですか。
新倉: 最も力をいれたのは、市民が裁判に参加する制度を作るのだから、制度づくりの段階から自分たち市民の声を反映してほしいと思って、司法制度改革推進本部や最高裁判所に意見書などを持っていくことですね。終盤は議員に対する要請もかなり行いました。
菅沼: 制度づくりの過程で市民の声が反映されるかどうかは、本当に市民参加の制度を作るつもりがあるかどうかの試金石になりますよね。その点で現実の立法過程はどうでしたか。
新倉: ぼくらの目指すところから言えば全く不満ですね。本部の検討会の審議をぼくらにも傍聴させてくれと申し入れたのに、マスコ ミには傍聴させるけど一般市民はシャットアウトでしたし、議事録も最初は委員の発言が匿名だった。意見書を持って行っても玄関口の応対で、委員の人数分コピーを出せば委員に配ってやるという雰囲気でした。まったく「聞いてやる」という対応です。まあ、やっていく中で少しずつ情報開示とかアカウンタビリティとかが意識されるようになってきましたが、市民に情報をオープンにしてその意見を聞くということでは、まだまだ問題は大きいですよ。
西野: 制度の中身についてはどうでしょうか。専門家の裁判官と市民の裁判員の人数をどうするかなど、かなり議論になっていたようですが。
新倉: その点も大問題です。市民が裁判官と対等に議論していくためには、やはり市民の数が多くなければだめです。昨年2月にぼくらの会で500人の参加者に裁判員として模擬裁判に参加してもらうイベントをしましたが、その時に裁判官役(法曹関係者)と裁判員役(市民)との組み合わせを1対11から3対2まで、いろいろ変えてみました。その結果、やはり裁判官の数が多いグループに裁判員として参加した人からは、議論がしにくかった、何かぐいぐいと裁判官に引っ張られちゃう、という感想が多かった。それに対して1対11のグループでは、裁判官に頼らず、裁判員同士でとても活発に議論ができて楽しかった、という感想が多かったですね。この結果は、司法制度改革推進本部に人数比の大切さを訴える際に、とても有効な説得材料になりましたね。
菅沼: それがいったんは3対2くらいまで議論が後退しましたよね。
新倉: 現在の法定合議事件は裁判官3人でやっていますからね。それを前提に考えると裁判官は3人必要、裁判員を入れるとしてもあまり人数が多くなると合議が成り立たなくなってしまうというので裁判員2人という案が出た。しかし、それでは市民参加が形だけのお飾りになってしまうと抗議して、押し返し、最終的には3対6となった。まあ、かつかつ合格というレベルですね。
西野: 一方で、国民の6割が裁判員をやりたくないと答えているという世論調査の結果も出ているようですが、その点はどう考えたらいいのでしょう。
新倉: ぼくに言わせれば当たり前ですよ。先に話したように立法に際して市民に情報を開示しない、意見をいおうとする市民を邪険に扱う。こんなことを一方でしながら、制度を作ってやったから参加しろと言っても無理でしょう。こういうやり方を基本的に改めないとだめですよ。また、ぼくら市民としても、外からワーワー言っても直らないわけですから、中に入って「これじゃあだめだ。裁判官はぼくらにも分かるようにきちんと説明して下さい。」とちゃんと要求を出して、中から変えていく。これがすごく大事だと思います。
菅沼: これから裁判員制度が実際に動き出すまでの間に変えていかなければならない点、整備しなければならないところがたくさんありそうですね。
新倉: 何よりも、国民の自覚に基づく主体的な参加が行われるためにも、また裁判員としてもっと参加しやすくなる環境を整備するためにも、一般市民の声が十二分に反映できるような推進体制を作ることが大事です。これから最高裁判所規則や政令で細かい点を決めていくことになるのですが、そこに国民が参加する協議機構を設け、その内容を公開して、この段階から国民が参加の意味を体験し、かつ実際に使い勝手のよいものが出来る、ということにしていく必要があります。
西野: 最後に、私のように裁判員なんて自分にできるのかと不安に思っている一般の人にコメントをお願いします。
新倉: これを自分たちの問題だと思って、周りの人たちとよく話し合ってほしいですね。そして、その結果を国会や裁判所に要望として出してもらいたい。そうすることによって制度もいいものになるし、皆さんにとってもそういう経験が裁判員になったときに気兼ねなく議論 できる基盤になります。
菅沼: 今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
(注) 裁判員制度を市民の参加しやすい、市民の良識がいかされる制度にしようということで、2002年6月に結成された市民ネットワーク。「家栽の人」原作者の毛利甚八氏らが代表世話人をつとめる。
■ 裁判員法の概略■
- 死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪、及び、法定合議事件であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る刑事事件を対象とする。
- 原則として裁判官3人、裁判員6人の合議とする。
- 有罪・無罪の決定及び量刑の判断は、上記合議体の過半数であって裁判官及び裁判員のそれぞれ1人以上が賛成する意見による。
- 裁判員の選任は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から1年ごとに無作為抽出で作成される裁判員候補者名簿の中から事件ごとに無作為抽出する。
- 裁判員の守秘義務等。