新宿から電車で西に約30分ほどの場所に、その地名にもなっている史跡武蔵国分寺跡はあります。この寺域の北側、立川市から世田谷区まで約25kmにわたって連なる国分寺崖線と重なるあたりにはいくつもの湧水が見られ、「お鷹の道・真姿の池湧水群」として環境省「全国名水百選」に選定されているほか、東京都指定文化財として名勝指定を受け、近隣はもとより、遠方からも湧水を汲みに来る方が絶えません。
2001年、この湧水の崖上に大型マンションの建設計画が持ち上がった際、湧水の涸渇、武蔵国分寺建立以来の歴史景観、自然景観破壊の懸念が、地域住民ばかりでなく市議会や行政にも広がったのは当然のことでした。協議の結果、建設予定地の一部を市が買い取るなどの努力は行われましたが、懸念は払拭されないまま、協議は暗礁に乗り上げてしまったのです。
基礎工事が始まってからでは手遅れになる。そう考えた私たちは2003年10月31日、真姿の池湧水と景観を保全するため、マンション建設差止を求める仮処分を申し立てました。当初から裁判所は私たちの主張に理解を示しましたが、12月に着工を強行されてしまった建設工事を睨みながらの審理は難航し、今年3月、マンション建設が湧水や景観に及ぼす影響には言及されないまま、当事者適格性という形式的な理由で申立は却下されてしまったのです。
現在は通常訴訟手続も進められていますが、すでにマンションはほぼ計画の高さにまで急ピッチで建ち上がり、これとは対照的に湧水はその量を減らし、涸渇のおそれも現実的な状況になっています。武蔵野を代表する樹木の名前を冠し、渾々と湧き出る真姿の池湧水の様子を募集広告に使うこのマンションは、地域住民はもとより入居者にさえ何をもたらそうとしているのでしょうか。