[特集 私と憲法]

 
 日本国憲法のことを最初に勉強したのは中学3年生の政治経済の授業で、夏休みの課題に国民主権と象徴天皇制の関係・憲法9条と自衛隊の問題をテーマとした文章を提出した。内容は稚拙なものだが、国民が主権者なのになぜ天皇が国民統合の象徴となるのかという疑問を書いた。教師からの回答はなかったし、未だに解決のついていない疑問である。
 高校生のときはラグビーばかりやって憲法のことなど考えたこともなかった。大学2年生のときに憲法判例のゼミをとったが、その指導教授が母校のラグビー部の先輩だったということを卒業してしばらく経ってから知った。ゼミで発表したテーマが家永教科書裁判だったが、まさか数年後にその弁護団に入るとは想像すらできなかった。ともあれ憲法判例の研究は、法実践のダイナミズムに目を開かせてくれるものだった。
 司法研修所では「憲法」は忘れられていた。弁護の実務修習で故雪入益見先生に指導していただき、先生が日本の憲法状況について熱く語られるのを聞いて、久しぶりに憲法に触れた思いをもった。そのまま居ついてしまった事務所は、教科書裁判をはじめ大学のゼミで学んだ多くの憲法判例の事件に数多く関与している事務所だった。
 弁護士1年目の年に、「憲法理念の実現をめざして」と題する事務所の記念論文集が刊行されたが、新人弁護士には書くべき話題もなく,司法研修所の教育内容批判でお茶を濁した。そのうち自分も立派な論文が書けるようになりたいと思った。
 ロンドンの大学で国際人権法を学んだときは、日本国憲法の先進性にあらためて気づかされた。
 10年ほど経ってやっと書けたのは小中学生向けの憲法の本だった。学校の図書館等で売れているようで現在まで10刷以上を重ねている。内容の更新はさっぱりできていない。
 かれこれ20年以上も法律実務家として働いてきたが、「憲法理念の実現」にどれほど寄与できたか顧みると甚だ心もとない。9月の総選挙の結果を見ていよいよ憲法改正の問題が現実化するのかという漠然とした不安を感じた。今までの不勉強を反省し、今一度憲法を一から勉強するときか、と思う。