弁護士 岩波 耕平

 香川県のいわゆる「ゲーム条例」が憲法違反かどうか争われた裁判において県が弁護士に支払った報酬等が「高すぎる」として住民が返還を求めた新たな裁判が提起されておりましたが、先日、最高裁が住民側の請求を退ける判断を出しました。
 「ゲーム条例」は、「子どものゲームの利用時間は1日60分まで」などと定めたものであり既に制定されてから約4年が経過しましたが、ゲーム条例には以下のような複数の問題があり、制定当初から議論を巻き起こしてきました。
 県が立法の理由とした「ゲームによる学業成績の低下」については、そもそもゲームとの間に明確な因果関係があるとする研究結果はなく、「ゲーム依存は成人の薬物依存と同様の危険性の高い問題」という点についても明確な根拠はありません。
 また、このような家庭内での事柄を県が一方的に定めることは憲法13条の自己決定権を侵害し、さらには子どもの権利条約における子どもの意思表明権を侵害するおそれもあります。
 前述のように、ゲーム条例に対しては、住民が「憲法に違反する」などとして県を訴えましたが、裁判所は「条例は、具体的な権利の制約を課すものではなく、憲法に違反しない」として住民の請求を退けたうえ、ゲームにより生じる社会生活上の支障については、「医学的知見が確立したとは言えないまでも、可能性そのものは否定できない」などと指摘しました。
 ゲーム依存で苦しむ子どもやその保護者が実際に存在しており、現代社会の問題として考えるべき事柄であることは否定し難いですが、現にゲーム依存で苦しんでいる家庭に対して、一方的に「ゲームは1日60分」までと制限するような条例を定めたところで、効果がなく、むしろ苦悩する当事者を余計に追い込んでしまう恐れすらあります。
 子どものゲームの利用は本来的には家庭内で決めるべき問題であり、それを行政が制限することは、本来の行政の在り方から行き過ぎた対応ではないでしょうか。