私は今、内橋克人氏の『悪夢のサイクル・ネオリベラリズム循環』という新刊本を読み終えようとしている。彼は常に市民の側に立った鋭い経済分析と批判を投げかけている経済評論家である。

 日本でもここ十数年来、競争市場は常に公平だという前提で、市場原理主義が規制緩和などのスローガンとともに横行し、格差社会が極端に広がって庶民を苦しめている(同書によれば、上下20%の階層間の所得格差は、1984年の13倍から2002年には168倍に拡大)。その理論的源流は、アメリカのユダヤ系経済学者ミルトン・フリードマン(シカゴ学派)で、彼の学説は、ケインズ主義学派との争いで勝利した後、アメリカ(レーガン)・イギリス(サッチャー)の経済政策として採用され、その後、大量の市民虐殺でも有名なチリ(ピノチェト)・アルゼンチンの軍事政権と結びつき、一時的には経済成長したものの、産業の停滞・失業者の激増・インフレ昂進等の事態を招き、特にアルゼンチンは国家的破産に陥ったことで世界的にも知られている。

 ところで、これら問題の多いネオリベラリズムの経済政策が日本に入ってきた主要な要因は、私にいわせれば、アメリカの圧力が一番大きいと思われるが、同書は、これを現実に推進したのは、竹中平蔵氏を始めとするシカゴ・ボーイズ達であるとされ、これを受け入れさせた要因(①官僚支配打破と錯覚した規制緩和のかけ声、②中立に見えた各種審議会・委員会の設置、③同調したマスコミ論調、④小選挙区制の導入)についての分析は、実に見事なものである。

 同書は、更に第8章「人間が市場を」で、これらの事態をどう解決するかについても触れ、現に北欧を中心に世界で、ネオリベラリズムを逆に規制する動きと闘いが始まっていることを指摘している。格差社会の拡大をどう打破るか緊急の課題である。