あいかわらず時代小説にはまりこみ、江戸の姿と今日の姿を対比しながら歩いています。ところで、江戸案内の三種の神器と楽しみについて、お話します。
「江戸切絵図」は、江戸市内の道や川、水路、壕、池、海、土手、田畑、武家屋敷、組屋敷、寺社仏閣、町人家屋などを、詳細に描いた江戸時代の地図です。江戸時代の「切絵図」のなかでも有名なのは、「尾張屋板」、「近江屋板」で、江戸時代を紹介する本に、かならず登場します。池波正太郎をはじめする作家が時代小説を描くときは、かならず参考にしているようです。この地図を片手にしての散歩が、おすすめです。例えば「四谷絵図」を見ると、江戸時代は軍事上から、甲州街道からまっすぐの橋がなかったことなどもすぐにわかります。
「江戸名所図会」は江戸時代に作成された7巻20冊の神社、仏閣、名所、旧跡の詳細な案内書です。この本には、文章とともに長谷川雪旦という人の名所の絵がたくさんのっています。例えば市ヶ谷にある「市ヶ谷八幡宮」などの絵をみると、今の状況とほとんどかわらないのがわかります。この「江戸名所図会」はこれまで、角川文庫とちくま文庫で発行されていますが、今は絶版なので、残念です。
「名所江戸百景」は安藤広重の、江戸の名所の118枚の版画です。江戸時代の町の様子を、浮世絵で示したもので、おもしろい版画がそろっています。例えば「四ツ谷内藤新宿」という版画には、現在の大木戸の先の甲州街道の宿場の様子がおもしろく描かれています。この「名所江戸百景」は美術史上でも大きな役割をしており、ご存じのとおり隅田川の大はしを描いた「大はしあたけの夕立」という版画は、ゴッホが模写した有名なものです。「名所江戸百景」をみて、同じ場所の現在の状況を見に行くのも、また楽しいことと思います。