昨年9月17日、高松高裁で、サッカー落雷事件について、画期的な原告勝訴判決がありました。
12年前、土佐高校1年生でサッカー部員だった北村光寿君が、高槻市体育協会主催のサッカーフェスティバルに部活で参加して、試合中、雷に打たれ、視力を失い、下半身不随・高次脳機能障害を負いました。家族の懸命な介護でリハビリに取り組み復学を目指していたところ、高校は責任を認めないばかりか、光寿君を除籍にし、責任追及の裁判になりました。
一審二審では、一般のスポーツ指導者には落雷を予見出来なかったとされ、敗訴しました。お母さんが高知市内の図書館で集めた本には、「雷鳴が聞こえたら、避難する」とありました。当日は、暗雲が立ちこめ、豪雨も降り、雷鳴も聞こえ、生徒も「こんな天気で試合をやりたくない」と言う程でした。最高裁は、2006年3月、学校の部活の引率教員には一般のスポーツ指導者より高度の予見義務があると、二審判決を破棄し、高松高裁に差戻していました。
差戻審では、落雷は避け得たか、損害範囲はどうかが審理されました。判決は、一般書にも「建物内(安全空間)か、4m以上の高い物から2m以上離れて45度の角度で見上げる範囲(保護範囲)に避難する」とあり、雷の専門家が「試合を続けたのは自殺行為に等しい。コートの周囲のネットを支える高さ8mのコンクリート柱の周り8mに保護範囲があった。」としたのに基づき、試合を中断して保護範囲に逃げ込めば避雷できたとし、学校や体育協会は、生徒の安全を守る立場にある以上、容易に知り得る科学的知見を知らなくても免責されないとしました。
更に判決は、光寿君の、絶望の淵から這い上がり、進学の夢の実現に向けたリハビリの努力と成果を法廷で目の当たりにし、差戻審の途中まで10年間のリハビリ治療を損害と認め、これからの維持的なリハビリ治療も将来損害と認めました。これは、後遺症に常時介護を認めた点とも通じ、人間らしい生活の確保に配慮した点で、画期的なことでした。
安全確保の科学的知見の獲得を個々の教員に課すには限界があり、その獲得を教員に保障する学校の責任こそが問われるでしょう。