弁護士 金井清吉弁護士 加納 力/事務局 新野友里子

 

 総理大臣の退陣にまで発展した普天間基地移設問題、騒音公害や米軍による事件・事故など、今なお「戦後」が続く沖縄の基地問題について、改めて考えてみました。

 

新野: 沖縄の基地問題といえば、今は何と言っても普天間基地移設問題を避けて通れませんね。

金井: 普天間基地問題は、今に始まったわけじゃなく、だいぶ前から問題になってたんだよ。
 1995(平成7)年に海兵隊員による少女暴行事件が起こって、沖縄をあげて反米軍・反基地の運動が盛り上がっていた。当時の県民総決起集会なんてすごかったじゃない。

加納: 8万5千人の大集会だったそうですよ。「平和な島を返して下さい」という高校生の訴えが何度も報道されてましたけど、本土の人間としては身につまされましたね。

新野: 私はまだ小学生だったけど、ニュースで見たような気がします。

金井: あの後、普天間基地は返還されることになったんだね。さすがに政府も放置できなくて、特別行動委員会(SACO)が設置されて、普天間基地の返還合意が成立したのが1996(平成8)年。でも、基地の移設が条件だった。

新野: 問題を起こしたのに、無条件では返還しないんですね。

金井: 辺野古に新しい基地を作って移設先にすることになったのもその時だったかな。

加納: いや、紆余曲折があったんです。沖縄県が県内移設を受け入れたのは、1998(平成10)年の県知事選で条件付き移設受け入れを掲げた新人が当選したのがきっかけでしょう。振興策と期限付き受け入れを条件にしていたはずです。

金井: そうだったね。あれは、現職知事が県内移設反対を表明したのに対して、政府が振興策を凍結するという”兵糧攻め”をやったのが大きかった。

新野: ひどぉい。それじゃ、また負担を押し付けられたようなものじゃないですか。

金井: まぁ、だからこそ鳩山前総理の「最低でも県外」という発言にみんな期待したんだね。
 まさか、あんな簡単に前言撤回するとは誰も思わないよ。国民的議論もないまま、憲法問題も棚上げにして、急に沖縄での抑止力などと言い出してね。

新野: そういえば加納先生は、3月に沖縄行ってきたんですよね。

加納: 沖縄に行ったのは、全国公害弁護団連絡会議(公害弁連)の総会があって、そのためだったんですけど、「沖縄から基地騒音被害の解消を目指して」っていう記念シンポジウムも開かれたんです。

金井: 基地騒音被害は、沖縄だけじゃなくて、全国的な問題でしょ。

加納: そうですね。裁判になっているものだけで、嘉手納基地、普天間基地、厚木基地、小松基地、岩国基地、それから今は裁判になっていませんけど、横田基地もありますよ。
 私もずっと横田基地訴訟に関与してますけど、沖縄の嘉手納あたりに行くと、うるさいなんてもんじゃない。怖いくらいですよ。だから、嘉手納も普天間も騒音訴訟じゃなくて、「爆音訴訟」って言っているんです。

新野: 沖縄でシンポジウムをやったのはなぜなんですか。

加納: 去年2月に福岡高裁那覇支部で嘉手納基地爆音訴訟の控訴審判決があって、今年7月には普天間基地爆音訴訟の控訴審判決が予定されているんです。それに、普天間基地の移設先とされた名護市の市長選挙で移設反対派の市長が誕生した。今基地問題を議論するなら、沖縄の地元の人たちの前でしなければってことで、嘉手納基地のある沖縄市でシンポジウムをやったんです。

金井: シンポジウムの内容はどうだったの?

加納: 各地の弁護団からの報告が中心だったんですが、基調講演として京都大学の松井利仁先生と、琉球新報の記者の方に講演していただいたんです。松井先生は、騒音の健康影響の研究をされていて、騒音によるストレスや睡眠障害が原因で虚血性心疾患になり、命を落とすこともある、そのリスクは交通事故より大きいって言うんです。

新野: えー、本当ですか。そう考えると、騒音って危険な汚染物質みたいなものなんですね。

加納: 沖縄には、嘉手納・普天間の飛行場だけじゃなく、訓練場、弾薬庫、通信施設なんかもたくさんあって、在日米軍基地の75%は沖縄にあるんですよ。

金井: 「基地の中に沖縄がある」なんて言われているけれど、こうして見ると、大げさな話じゃないね。

加納: 爆音だけじゃなく、米兵による事件も絶えないし、ヘリコプターの墜落事故なんて大事故も起こるし、「何が『安全保障』か」って言われてますよ。

金井: 日米安保だ、抑止力だ、って言われているけれど、要するにアメリカの世界戦略の重要拠点なんですよ。沖縄には「戦後」が続いているんですね。旧ソ連との間の冷戦、朝鮮戦争、中国の軍拡、不安定の弧と、いろいろ言い方を変えて在日米軍駐留の必要性が声高に言われてきたけれど、結局は米軍の常駐化、基地の恒久化でしょう。その一方で、沖縄の基地被害に対しては、アメリカも日本政府も常におざなりな対応しかしてこなかった。ふるさとも生活も奪われた沖縄の人たちの怒りが沸騰しているのは当然でしょう。

新野: でも沖縄には米軍基地だけじゃなくて、きれいな海とか、おいしい食べ物とか、そういうところもありますよね。

加納: 確かにね。でも、普天間基地の移設先にされている辺野古は、珊瑚礁の海でジュゴンの棲息地にもなっているのに、このままだとすっかり潰されてしまいそうなんです。

金井: 沖縄は公共工事も多いんじゃなかったかな。 それが振興策ってことなんだろうけど。

加納: 基地負担の見返りが、開発という名の環境破壊になっているのは皮肉ですよ。沖縄にとって、あの自然環境は一番の宝のはずなのに。

金井: 沖縄は太平洋戦争で捨て石にされたあげく、今は米軍に差し出された生け贄にされているようなもんだ。菅直人新総理は、就任早々、辺野古移設の日米合意を守ると言い切ってしまったけど、今回の普天間問題をいい加減に決着させると、後々まで禍根を残すことになるね。

新野: 沖縄はまさに日米安保の縮図ってことですね。

(この座談会は2010年6月9日に行われました。)