刑事裁判に市民が参加する裁判員裁判が始まり1年が過ぎました。殺人や性犯罪での量刑が、裁判官裁判のときよりも重くなり、執行猶予の場合に保護観察付きが多かったようで、犯罪被害の捉え方や被告人の更生への期待に市民感覚が表れているなどと言われています。しかし、重大事件の審理を対象としている裁判員裁判の大半は、未だ審理されていません。1年間で延べ1,881人に起訴があった内、判決は530人に過ぎません。「素人」裁判員の負担軽減のため、法廷で「聞いて、見て、わかる」審理をするために、検察官・弁護人双方の主張を分かり易く争点をシンプルにし、争点判断に必要な証拠を簡素化するための「公判前整理手続」に時間を掛けているためです。捜査段階の調書を抄本化したり、鑑定なども裁判員が理解できるようにして負担を減らす「工夫」がなされています。そのため、否認事件や専門的知見が必要な事件、審理期間を要する事件が残っています。冒頭陳述や弁論でパワーポイントを使い、リハーサルも重ね、裁判員を「観客」にした芝居作りのようで、被告人を置き去りにしていないかと、弁護人の自戒的な感想も目にします。

 幾つか無罪判断も伝えられますが、こうした裁判員裁判でえん罪を晴らすことが出来るのか、適正な量刑判断がなされるのか、今後問われることになるでしょう。

 先日、再審を経て無罪が確定した足利事件では、DNA鑑定の評価を誤っていました。取り調べの録音は、嘘の自白を迫る様子から自白が信用出来ないことを明らかにしました。最近、再審が始まった布川事件でも、虚偽自白に陥りやすい状況に置きながら自白に頼り、毛髪鑑定などの開示がなされなかったことが指摘されています。

 先日の刑事訴訟法改正で、死刑に当たる罪の公訴時効が撤廃されました。被告人の防御権への影響が懸念されています。裁判員裁判がえん罪をもたらさないようにするには、「取り調べ過程の全面可視化」や、なお不十分な全面証拠開示が不可欠です。