弁護士 金井清吉/弁護士 松川邦之/事務局 三木 優
三木 検察審査会が、小沢一郎氏の収支報告書虚偽記入事件について強制起訴しましたけれども、検察審査会の強制起訴というのはどういうものなんですか。
松川 検察審査会は国民の中からくじで選ばれた11人の検察審査員で構成します。審査会は、検察官が犯罪の嫌疑者を起訴しなかったことの当否を判断し、起訴しなかったこと(不起訴)が不当と判断をすれば、検察官はもう一度起訴するかしないかを再考しなければなりません。それで再度検察官が不起訴にした場合は再び審査会で審査をし、改めて起訴議決をすると、強制起訴がされることになるんですが、その場合の起訴状を書いたり公判で立証をしたりする通常の検察官の役割は、我々のような弁護士が務めるんです。
金井 従来の制度だと、検察に再考を促せるだけで審査会に強制起訴の権限まではなかったのが、最近改正されて、平成21年5月から施行されたんですよ。やっぱり国民の目線から、どうしても納得がいかない場合は起訴がされるべき、ということだね。
三木 新しい制度だったんですね。明石の花火大会の事件でも話題になったことを覚えています。
松川 前提として、日本では、裁判所に対して起訴をするかしないかの権限を検察官に独占させていて、検察官は事件について起訴をするか不起訴で終わらせるかを決定する広い裁量がある、という制度をとっているということですね。そもそも誰が起訴の権限をもつかは、各国で様々あるんでしたね。
金井 諸外国には日本のようでないところも多いね。検察が起訴権限を独占するとなると、起訴不起訴の判断が通常の窃盗事件や交通事故においても国民の感覚から離れることが有りうるし、検察も警察官や政治家に甘かったり、周囲から不当な影響を受けたりすることもある。それで、国民の視点を入れて是正する道も作ったんだ。
三木 国民が刑事司法に参加する、という点で、裁判員裁判と同じなんですね。
松川 審査会自体は昭和25年からある制度ですから、その意味では裁判員制度の大先輩といえるでしょうね。
金井 検察が起訴しなかった大物政治家を国民が公の刑事裁判へ起訴した、という点で、政治家と検察の関係という意味では典型的な事件ともいえるかもしれないね。
三木 そうなんですね。ところで、小沢氏の事件は東京地検特捜部が不起訴としたことから検察審査会での検討対象となったものでしたね。特捜といえば、小沢氏の事件だとか、賄賂事件などを専門的に扱い、それこそ政治権力から独立した適正な司法を担うために作られたものだと、テレビや新聞で解説がされてましたけど、厚労省職員の郵便不正事件の裁判で、大阪地検特捜部の検事が証拠のFDを改ざんした、という事件もありましたね。
松川 ちょっと前の一時期は、連日検察の話題だらけでしたね。人を有罪にするための証拠改ざんを本当にしたとしたなら、冤罪を故意に作っているようなもので、それは絶対に許されるものではないですよ。実際に冤罪事件として最近話題になった事件も複数ありますし、警察や検察の一部で密室での高圧的あるいは偽計的な取調べ、取調時作成メモの廃棄等の証拠隠滅等が行われるという話はしばしば耳にします。
金井 それは昭和の時代からたくさんある類の話だね。日本の有罪率は99.9%で、検察は起訴した以上は必ず有罪を取らなければ昇進することのマイナスになるみたいだ。それが無理矢理有罪を作ろうとする動機になる、という意見もあるが、大きな権限を与えられた検察官の本来的になすべき役割が忘れられてるんじゃないか。
松川 日々国民や被害者、ときには被告人のため、昼夜問わず誠意をもって働いている良心的な検察官もたくさん知ってますけどね。金井先生や加藤先生が最高裁での弁護を担当されて、逆転無罪になった鹿児島の殺人事件、僕は学生時代に教科書で勉強しましたよ。あれも最終的には、全然別の事件を口実的に利用した違法な逮捕、そして80日間余りにも及ぶ連日長時間の強引な取調の結果、被告人が疲労困憊してしまい、客観的状況からは不自然な自白をさせられたと認定されていました。
金井 そうだったね。今まで検察の話題だったけども、有罪判決を出すことに慣れきって警察・検察の作った捜査段階の調書をより信用して判決を出す裁判所にも大きな問題がありますね。懐かしい話だなあ。
松川 あの事件の最高裁判決が出た年は、私が生まれた年なんですよ。
金井 そんなに経ったのか。
三木 そうなんですね。でも、そういう検察や裁判所の話をきくと、怖いですね。裁判員制度になって、何か変わるんでしょうか。
松川 国民が入って、裁判所も検察も我々も新しい緊張感が走ることは事実ですから、期待はできますね。ただ、裁判員を平日拘束する都合上、審理を2~4日程度に限定する、またそうしないまでもできるだけ短期間で行おうとするために、あるいは裁判員に分かり易くするために証拠をまとめてしまうこともあるために、必ずしも十分な事実や証拠の精査ができなくなる危険性は、前々から指摘がされているところです。
金井 検察官の手持ち証拠の全面開示がどうしても必要だね。もし被告人に有利な証拠を隠してたら、それだけで無罪にする。
三木 先ほどの郵便不正事件に関する前特捜部長の大阪地裁での刑事裁判の報道によれば、前特捜部長は容疑の否認を貫くようですね。
松川 改ざんの事実・経緯・理由の立証のため、現職検事や検察OBの証人尋問がなされることにより、検察の取調・捜査実態が白日の下にさらされるとも言われていますね。被告人も元検事ですから、自ら尋問していく場面も予想されます。
金井 どこまでの組織的問題なのか、根の深さを注視したいですね。ただ、少なくとも一部にこのような実態がある以上、警察や検察の取調をDVDに録画するなどして後から見られるようにする取調可視化を全面的に実現し、何らかの国民や弁護士によるチェックはどうしても必要ですね。